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馬の関節鏡での抗生物質

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馬の関節鏡は、様々な関節疾患の治療に適応されており、侵襲性が低いという利点がありますが、合併症がゼロという訳ではないことには注意する必要があります。

ここでは、馬の関節鏡での術後合併症について調査した知見を紹介します。この研究では、スウェーデンの馬病院において、2008~2010年にかけて、444頭の馬に実施された636箇所の関節鏡手術における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Borg H, Carmalt JL. Postoperative septic arthritis after elective equine arthroscopy without antimicrobial prophylaxis. Vet Surg. 2013 Apr;42(3):262-6.

結果としては、関節鏡の術後に合併症を起こした関節は3.1%(20/636箇所)に留まっており、症例馬の割合では4.3%(19/444頭)となっていました。この内訳は、発熱(9頭)、術創感染(3頭)、蜂窩織炎(1頭)、バンテージ褥瘡(2頭)、術部腫脹(1頭)、内科的疝痛(1頭)などが含まれ、細菌性関節炎の発症率は0.5%の関節(3/636箇所)に留まっていました。なお、細菌性関節炎の発症馬は、他の合併症は起こしていませんでした。

この研究では、術前に予防的な抗生物質投与は行なわれていませんでしたが、細菌性関節炎の発症率(0.5%)は、過去の文献[1]で報告されている発症率(0.9%)よりも低くなっていました。このため、適切な無菌的作業が実施されれば、抗生物質無しでも細菌感染を起こさない関節鏡手術が実施できることが示唆されました。また、ヒト医療での関節鏡でも、術後の細菌性関節炎の発症率は、0.01~0.5%であったと報告されています[2]。

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この研究では、細菌性関節炎を起こした三頭のうち二頭は、術後2週間以上(15日および17日)経ってから確認されていました。また、過去の文献でも、関節鏡での細菌性関節炎は、術後20日後に認められたことが報告されています[1,3]。特に、本研究の二頭では、抗炎症剤の投与(感染の症状発現を遅延させる可能性あり)も行なわれていないため、関節腔への細菌感染は、術後に発生した可能性が高いという考察がなされています。また、これらの馬のなかには、馬がバンテージを咬んで外してしまった事象もあったと述べられています。

一般的に、馬の関節鏡後に起こる発熱に関しては、術後48時間以内の発熱であれば、全身麻酔や外科侵襲に対する生理的反応であると考えられていますが[4]、術後48時間以降の発熱の場合には、細菌性関節炎の初期徴候であるリスクを考慮して、抗生物質投与を行なうことが推奨されています。一方、発熱の要因が呼吸器疾患だという症例もありうることから、身体検査や血液検査で十分に発熱原因を精査することが重要だと考えられています。

この研究では、予防的な抗生物質投与が控えられた結果、術後に下痢症状を示した馬はいませんでした。一方で、過去の文献では、関節鏡の術前に抗生物質が投与された場合には、下痢症が6.3%の馬に認められたという報告があり[5]、抗生物質の全身投与による腸内細菌叢の攪乱が素因として挙げられています。このため、抗生物質を使うことによる感染リスク(0.5%)よりも、抗生物質を使うことによる下痢リスク(6.3%)のほうが深刻だ、というのが筆者の主張のようです。ただ、馬の運動能力に及ぼすマイナスは、下痢よりも細菌性関節炎のほうが顕著に大きい、という点も考慮されるべきと言えます。

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近年では、「抗生物質のスチュワードシップ」という考え方に基づき、獣医療で使う抗生物質の種類と量を抑えることで、耐性菌の発生を予防して、ヒト医療への悪影響を防ぐことの重要性が叫ばれています。このため、馬の関節鏡においても、不必要な抗生物質投与を控える努力は有益だと言えます。一方で、0.5%という感染率(200頭に一頭)は、高額な競走馬を手術する際には許容できない、という考え方もあるかもしれません。ですので、少なくとも、術後のケアを丁寧に行なって、術創感染や蜂窩織炎など、追加の抗生物質療法が必要な状況を避ける取り組みを続けていくべきなのかもしれません。

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参考文献:
[1] Olds AM, Stewart AA, Freeman DE, Schaeffer DJ. Evaluation of the rate of development of septic arthritis after elective arthroscopy in horses: 7 cases (1994-2003). J Am Vet Med Assoc. 2006 Dec 15;229(12):1949-54.
[2] Babcock HM, Matava MJ, Fraser V. Postarthroscopy surgical site infections: review of the literature. Clin Infect Dis. 2002 Jan 1;34(1):65-71.
[3] Goodrich LR, McIlwraith CW. Complications associated with equine arthroscopy. Vet Clin North Am Equine Pract. 2008 Dec;24(3):573-89.
[4] Southwood LL. Principles of antimicrobial therapy: what should we be using? Vet Clin North Am Equine Pract. 2006 Aug;22(2):279-96.
[5] Weese JS, Cruz A. Retrospective study of perioperative antimicrobial use practices in horses undergoing elective arthroscopic surgery at a veterinary teaching hospital. Can Vet J. 2009 Feb;50(2):185-8.

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このエントリーのタグ: 手術 関節炎 骨折 薬物療法

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