馬の関節鏡での骨片サイズの影響
話題 - 2022年12月06日 (火)

馬の関節鏡は、様々な関節疾患の治療に適応されており、侵襲性が低いという利点がありますが、合併症がゼロという訳ではないことには注意する必要があります。
ここでは、馬の関節鏡での術後合併症と骨片サイズについて調査した知見を紹介します。この研究では、カナダのゲルフ大学の獣医病院において、2011~2020年にかけて、飛節(脛骨足根関節)の関節鏡手術が行なわれた329頭の馬(485箇所の関節)における、医療記録の回顧的解析、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。
参考文献:
Merchan A, Koenig J, Cote N, Cribb N, Monteith G. Fragment size is associated with post-operative complications following elective arthroscopy of the tibiotarsal joint of horses. Can Vet J. 2022 Jan;63(1):74-80.
結果としては、飛節の関節鏡における合併症のうち、細菌性関節炎の発症率は0.8%(4/485関節)、術創感染の発症率は0.4%(2/485関節)、滑膜瘻管の発症率は0.2%(1/485関節)となっていました。また、脛骨遠位の中間稜における骨片サイズは、細菌性関節炎の発症率と有意に相関していました。具体的には、骨片の高さが1mm増すごとに、細菌性関節炎のリスクが44%増加する(OR=1.44)ことが示され、また、骨片の長さが1mm増すごとに、細菌性関節炎のリスクが15%増加(OR=1.15)することも分かりました。なお、高さの中央値は13.5mmで、長さの中央値が18mmとなっていました。

この研究では、脛骨遠位の中間稜における骨片は、高さが9~16mmと多様であったことから、たとえば、高さ9mmと16mmの骨片を比較すると、細菌性関節炎のリスクが13倍も高くなる(1.44の7乗は12.84)と言えます。この要因としては、サイズの大きな骨片ほど、摘出するための関節包/皮膚の穴も大きくなったり、皮下に還流液が貯留しやすかったためと推測されます。このため、骨片を取り出す際には、出来るだけ骨片の長軸方向に沿ってロンジュールで掴むことで、通過に要する幅を狭くしたり、骨片を分割して取り出す(破片が関節腔に散らばるリスクは増える)、取り出すときに還流液を止めておく、などの方策が考えられました。
この研究では、縫合糸の種類として、①2-0のモノクリル、②2-0のプロリン、③2-0のサージプロ、④0のサージプロ、という四種類が比較されました。その結果、細菌性関節炎を起こす確率は、④と比較して、①~③では大きく減少する(OR=0.009~0.063)ことが分かりました。このため、飛節の関節鏡の術創縫合では、サイズ0未満の縫合糸を使うことが推奨されています。この要因としては、太い糸では、組織が切れて創傷が裂開したすくなったり、吸収に時間が掛かって皮下浮腫を持続してしまうためと考えられました。

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