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馬の敗血症とその後の骨軟骨症

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子馬の敗血症は、早期治療すれば予後は比較的良好ですが、長期的な影響については不明な点も多いと言えます。

ここでは、子馬の敗血症と、その後の骨軟骨症の発生について調査した知見を紹介します。この研究では、ノルウェーの馬病院にて、2006~2012年にかけて、生後六ヶ月齢までに敗血症の治療を受けて治癒した28頭のスタンダードブレッドにおける、その後(7~85ヶ月齢時点)のX線検査所見の評価が行なわれました。

参考文献:
Hendrickson EHS, Lykkjen S, Dolvik NI, Olstad K. Prevalence of osteochondral lesions in the fetlock and hock joints of Standardbred horses that survived bacterial infection before 6 months of age. BMC Vet Res. 2018 Dec 10;14(1):390.

結果としては、敗血症が治癒した馬において、骨軟骨病変が認められた馬は68%(19/28頭)に及んでおり、部位別に骨軟骨病変の有病率を見ると、球節では50%(14/28頭)で、飛節では39%(11/28頭)となっていました。骨軟骨症に関する過去のコホート研究[1-3]のデータを見ると、骨軟骨病変の有病率は36~51%となっており、部位別の発症率を見ると、球節では12~23%である一方で、飛節では12~19%となっていました。これらの数値を、今回の研究と比較すると、敗血症が治癒した馬においては、骨軟骨症を有意に発症しやすくなっていることが分かりました。

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この研究では、敗血症が骨軟骨症の発症素因になるメカニズムとして、菌血症または内毒素血症によって、骨端軟骨部の脈管が損傷を受けることが挙げられており[4]、虚血性の軟骨壊死を生じた箇所において、軟骨内骨化が遅延することで、骨軟骨片の形成や軟骨下骨の不整に繋がると仮説されています。しかし、臨床症例においてこの仮説を証明するのは難しく、遺伝的素因や栄養管理の失宜、物理的な衝撃など、敗血症以外の要因による脈管損傷の可能性を排除するのは、研究デザインとして困難であると考察されています。

この研究では、骨軟骨病変の診断はX線検査に依存していたことから、骨片形成や軟骨下骨不整の大きさや重篤度の定量化は困難であったものの、敗血症が治癒した馬における病変は、通常の骨軟骨症で認められる病変よりもサイズが大きい傾向にあったと述べられています。このため、敗血症の病歴を持つ馬では、骨軟骨症の発症率が上がるだけでなく、病態を進行させやすくなるという可能性も示唆されています。今後の研究では、関節液検査や外科的摘出された骨片の病理組織学的検査を介して、骨軟骨症のステージや重症度合いを評価することが必要だと推測されました。

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Photo courtesy of BMC Vet Res. 2018 Dec 10;14(1):390.

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参考文献:
[1] Grondahl AM, Dolvik NI. Heritability estimations of osteochondrosis in the tibiotarsal joint and of bony fragments in the palmar/plantar portion of the metacarpo- and metatarsophalangeal joints of horses. J Am Vet Med Assoc. 1993 Jul 1;203(1):101-4.
[2] Lykkjen S, Roed KH, Dolvik NI. Osteochondrosis and osteochondral fragments in Standardbred trotters: prevalence and relationships. Equine Vet J. 2012 May;44(3):332-8.
[3] Philipsson J, Andreasson E, Sandgren B, Dalin G, Carlsten J. Osteochondrosis in the tarsocrural joint and osteochondral fragments in the fetlock joints in Standardbred trotters. II Heritability. Equine Vet J Suppl. 1993;16:38–41.
[4] Wormstrand B, Ostevik L, Ekman S, Olstad K. Septic Arthritis/Osteomyelitis May Lead to Osteochondrosis-Like Lesions in Foals. Vet Pathol. 2018 Sep;55(5):693-702.
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