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馬運車での繋留法の影響

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馬という動物にとって、馬運車での輸送は、肉体的負担やストレスの多い行為であるため、馬体への影響を考慮してあげることが大切です。

ここでは、馬運車の内部での繋留法が、馬の健康状態に及ぼす影響ついて調査した知見を紹介します。この研究では、10頭の健常馬を用いて、24時間の輸送中に、頭絡を左右の曳き縄で張り馬にした状態、もしくは、広い区画に自由起立させた状態にして、輸送前と輸送後における身体検査や血液検査が実施されました。

参考文献:
Stull CL, Rodiek AV. Effects of cross-tying horses during 24 h of road transport. Equine Vet J. 2002 Sep;34(6):550-5.

結果としては、自由起立にした場合に比較して、張り馬で繋留した場合には、白血球数、好中球数とリンパ球数の比率、血糖値、コルチゾル濃度などが有意に高値を示していました。一方、体重、体温、PCV値、蛋白濃度等では、両群で有意差はありませんでした。このため、馬を長距離輸送する際には、自由起立の状態にするか、頭部の動きを自由にすることが推奨されました。

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なお、上図は、左上が白血球数、左下が好中球数とリンパ球数の比率、右上が血糖値、右下がコルチゾル濃度となっており、実線が張り馬された馬群で、点線が自由起立された馬群を示しています。また、黒両矢印は、輸送されたタイミングになります(Day2)。これらの四項目は、いずれも両群のあいだで有意差が認められました。

一般的に、馬の長距離輸送は、呼吸器疾患の発症素因になることが知られており(いわゆる輸送熱)[1]、その理由としては、馬の頭部を挙上させた状態で保定することで(張り馬繋留)、気管内膜の絨毛エスカレーターの機能が下がり、下部気道の細菌数増加に繋がるためであると報告されています[2,3]。今回の研究において、張り馬したときに認められた白血球数や好中球分画比の上昇は、このような下部気道の軽度細菌感染に起因すると推測されています。

この研究では、血糖値およびコルチゾル濃度が、馬の精神的ストレスの指標として測定され、いずれも、自由起立の馬のほうが有意に低くなっていました。しかし、競走馬の長距離輸送などにおいては、広い区画で自由にさせると、馬運車の揺れによって馬がふらつき、外傷やストレスの原因にもなり得ます。このため、馬体自体は小さな区画内に保定しながら、頭部を挙上させて張り馬にするのは避ける(もしくは長時間は続けない)、という繋留法が最も実用的であると考えられています。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2002 Sep;34(6):550-5.

参考文献:
[1] Austin SM, Foreman JH, Hungerford LL. Case-control study of risk factors for development of pleuropneumonia in horses. J Am Vet Med Assoc. 1995 Aug 1;207(3):325-8.
[2] Raidal SL, Love DN, Bailey GD. Inflammation and increased numbers of bacteria in the lower respiratory tract of horses within 6 to 12 hours of confinement with the head elevated. Aust Vet J. 1995 Feb;72(2):45-50.
[3] Raidal SL, Bailey GD, Love DN. Effect of transportation on lower respiratory tract contamination and peripheral blood neutrophil function. Aust Vet J. 1997 Jun;75(6):433-8.

関連記事:
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