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ピンキャストでの馬の指骨粉砕骨折の治療

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ピンキャスト(Transfixation pin cast)とは、馬の骨折の治療法の一つで、管骨を貫通させたピンを、半肢キャストに埋め込むことで、骨折部への荷重を迂回させて治癒を促すという外固定法になります。ここでは、コロラド州立大学の大動物病院にて、指骨の粉砕骨折を呈した20頭の馬に対して、ピンキャスト治療を実施した症例報告を紹介します。

参考文献:
Joyce J, Baxter GM, Sarrafian TL, Stashak TS, Trotter G, Frisbie D. Use of transfixation pin casts to treat adult horses with comminuted phalangeal fractures: 20 cases (1993-2003). J Am Vet Med Assoc. 2006 Sep 1;229(5):725-30.

指骨粉砕骨折の症例のプロフィールは、平均年齢が9.1歳で、クォーターホースが半数(10/20頭)、アラブが1/4(5/20頭)を占めていました。粉砕骨折したのは、14頭が中節骨で、6頭が基節骨であり、8頭では前肢で、残りの12頭は後肢となっていました。

治療内容としては、ピンキャストと内固定が併用されたのが11頭で、ピンキャストのみが9頭となっており、前者のうち、プレートによる冠関節の固定術が実施されたのは4頭で、残りの7頭は、ピンキャストを補填するための螺子固定術が行なわれました。また、殆どの症例(19/20頭)で二本のピンが管骨に設置され、残りの1頭では、ステインマンピンが三本使われました。そして、ピンキャストは平均52日間にわたって装着され、その後は、通常の半肢キャストが平均25日間装着されました。

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治療成績としては、ピンキャスト治療された粉砕骨折馬での、短期生存率は70%(14/20頭)であり(生存して退院した馬の割合)、残りの30%(6/20頭)は、手術後の入院期間中に安楽殺となっていました。このうち、ピンキャストが40日間以上にわたって維持できた馬の生存率は92%(11/12頭)に上っており、40日間未満しか維持できなかった馬の生存率(38%、3/8頭)よりも有意に高くなっていました。また、前肢の骨折での生存率(50%、4/8頭)に比べて、後肢の骨折での生存率は83%(10/12頭)であり、やや高い傾向が見られました。

長期生存率を見てみると、退院後に経過追跡ができた症例(11頭)のうち、骨折と無関係の理由で死亡した1頭を除くと、退院後に一年以上生存した馬の割合は100%(10/10頭)でした。このうち、常歩で無跛行であったのは8頭であり(残りの2頭は常歩でも跛行)、そのうち5/7頭(63%)は、ピンキャストに内固定が併用された症例でした。また、この10頭のうち3頭は、軽度の騎乗使役に復帰しており、5頭は繁殖馬として飼養されていました。

この研究では、退院前に安楽殺となった6頭の理由としては、ピン孔での管骨骨折が67%(4/6頭)を占めており、遠位肢虚血が1頭、骨折部圧潰が1頭となっていました。ピン孔骨折のうち3/4頭は、最も近位のピン孔で骨折しており、2/4頭では麻酔覚醒の事故として発症していました。

この研究では、X線画像においてピン孔周囲の骨融解が認められた症例が60%(12/20頭)に及んでおり、そのうち58%(7/12頭)で細菌培養検査が陽性となっていました。これらの症例では、骨融解によって緩んでしまったピンは抜去されて、残ったピンを埋め込んだピンキャストが装着されましたが、ピンを抜くことで骨折箇所が不安定化した徴候は無く、そのピン孔での管骨骨折も起こっていませんでした。

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以上の結果から、ピンキャストによる指骨骨折の治療では、中程度~比較的に良好な予後が期待されることが分かりました。また、術後の40日間以上にわたってピンキャストが維持されて、退院を果たした場合には、良好な長期生存率が期待されて、騎乗復帰できる可能性もあることが報告されています。なお、ピンキャストが40日以上維持された症例では、80日を超えない期間中に全てのピンを抜去する(不使用性の骨質減少症を防ぐため)という治療方針が推奨されています。

一方、ピンキャスト治療での最も深刻な合併症は、ピン孔での管骨骨折となっていました。この予防策としては、ピンを出来るだけ管骨の遠位側に設置するのが大切であり、一本目のピンは骨端線の箇所に、二本目はその2~3cm近位側に設置する方針が推奨されています。また、二本のピンを、30°捻じった方向に挿入することで(二本とも肢軸には直角)、皮質骨面での歪みを分散させたり、適切な麻酔覚醒を行なうことも、ピン孔骨折の予防に繋がると考察されています。

また、ピン孔の骨融解も、比較的多く起こる合併症であり、ピンキャスト用にデザインされた螺子溝が突出したピンであれば、骨を保持する作用が増強されるものの(ステインマンピンに比較して)、ピンを挿入する際に、ドリルビットを十分に冷却したり、時間を掛けてピンを捻じ込むことで、摩擦熱による骨壊死を防ぐことが重要です。近年の研究では(下記リンク)、ピンをキャストに埋め込む際に、キャスト素材をピン周囲に巻き付けることで、ピンの歪みを抑える手法も試みられています。なお、X線で骨融解が見つかったり、細菌培養に陽性であった場合にも、ピンの緩みが無ければ、必ずしも抜去する必要はないと提唱されています。

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そして、ピンキャストに内固定を併用する治療では、生存率の向上度合いは、統計的には有意ではありませんでした。しかし、内固定による悪影響を生じた症例もいなかったことから、螺子固定や関節固定が実施できるサイズの骨片が存在するのであれば、積極的に内固定を併用することが推奨されており、粉砕骨折片同士を出来るだけ近距離に維持することで、骨癒合と骨折部の早期安定化を促して、ピン孔箇所への負荷を軽減できると考えられました。なお、長期生存した症例では、内固定を併用したほうが、歩様の改善度合いが向上する傾向がありました。

この研究におけるピンキャスト治療は、骨折を堅固に内固定できないような粉砕骨折に対して適応されていますが、たとえ粉砕骨折ではないケースでも、内固定を補強する意味で適応することで、治療成績を向上できる可能性があると考察されています。例としては、基節骨骨折において支柱骨片が無い場合の螺子固定術や、プレートだけでは関節固定術の強度に不安が残る場合(中節骨の掌側突起が内外側とも剥離骨折した病態等)が挙げられています。

Photo courtesy of Equine Fracture Repair: Alan J Nixon; 2nd Eds, 2020, Wiley (ISBN: 978-0-813-81586-2), Vet Surg. 2014 Jan;43(1):66-72, J Am Vet Med Assoc. 2006 Sep 1;229(5):725-30.

参考文献:
Rossignol F, Vitte A, Boening J. Use of a modified transfixation pin cast for treatment of comminuted phalangeal fractures in horses. Vet Surg. 2014 Jan;43(1):66-72.

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