馬の文献:運動誘発性肺出血(Kindig et al. 2003)
文献 - 2022年12月11日 (日)

「坂路走行はサラブレッドの肺出血を増加させる」
Kindig CA, Ramsel C, McDonough P, Poole DC, Erickson HH. Inclined running increases pulmonary haemorrhage in the Thoroughbred horse. Equine Vet J. 2003; 35(6): 581-585.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)の病因論(Etiology)を検証するため、六頭の健常なサラブレッドを用いて、平坦もしくは傾斜を付けたトレッドミル運動(Level/Inclined treadmill exercise)を行った30分後における、気管支肺胞洗浄(Bronchoalveolar lavage)による肺出血(Pulmonary hemorrhage)の評価が行われました。
結果としては、傾斜を付けたトレッドミル運動時では、平坦なトレッドミル運動時に比べて、気管支肺胞洗浄液中の赤血球数(Red blood cell count)が有意に増加しており、運動誘発性肺出血の重篤度(Severity)の悪化につながった事が示されました。そして、傾斜を付けたトレッドミル運動のほうは、平坦なトレッドミル運動に比較して、呼吸頻度(Breathing frequency)の有意な減少、一回換気量(Tidal volume)の有意な上昇、および、平均肺動脈圧(Mean pulmonary arterial pressure)の有意な下降などが認められました。このため、サラブレッドの坂路運動では、肺容積の増加(Increasing lung volume)(=呼吸頻度減少+一回換気量上昇)と、それに伴う胸腔内圧の変動度合いの上昇(Increasing intrapleural pressure swing)によって、運動誘発性肺出血の病態悪化につながる事が示唆されました。
一般的に、馬の運動誘発性肺出血は、肺の背尾側領域(Dorso-caudal region)に好発する事が知られており、この箇所における肺胞内陰圧(Negative alveolar pressures)が増加する要因としては、腹腔内容物の動揺(Abdominal content movement)によって横隔膜移動(Diaphragmatic displacement)が生じる事、または、単に鼻孔から最も遠い領域にあるという事、などが挙げられています。そして、肺の伸展性(Pulmonary compliance)がそのままで換気量が増えると、胸腔内&肺胞内陰圧(Increases in negative intrapleural and alveolar pressures)の増加が引き起こされると考えられ、また、経壁圧(Transmural pressure)の変化を伴わない肺容積増加を介して、肺組織の内皮&上皮損傷(Endothelial and epithelial breaks)を生じる事も、肺出血の重篤度の悪化に寄与している、という考察がなされています。
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