アルファキサロンでの馬の点滴麻酔
話題 - 2022年12月12日 (月)

点滴麻酔は、全静脈麻酔(Total intravenous anesthesia)とも呼ばれ、麻酔薬を持続的に点滴で投与することで全身麻酔を維持する手法で、往診現場でも短時間の手術を実施することが可能となります。ここでは、アルファキサロンを用いた点滴麻酔に関する知見を紹介します。
参考文献:
Aoki M, Wakuno A, Kushiro A, Mae N, Kakizaki M, Nagata SI, Ohta M. Evaluation of total intravenous anesthesia with propofol-guaifenesin-medetomidine and alfaxalone-guaifenesin-medetomidine in Thoroughbred horses undergoing castration. J Vet Med Sci. 2017 Dec 22;79(12):2011-2018.
注意:下記の記述は、あくまで概要解説ですので、実際の施術に際しては、成書もしくは文献の原文を必ず確認して下さい。また、各薬剤の投与量は、馬の年齢や気性、全身状態の重篤さに応じて、常に微調整する必要があることに留意して下さい。
この研究では、以下の1と2で鎮静後に、3と4で麻酔導入を行ないます。
導入薬1: メデトミジン(0.005mg/kg)の静注
導入薬2: ブトルファノール(0.02mg/kg)の静注
導入薬3: グアイフェネシン(10mg/kg)の静注
導入薬4: アルファキサロン(1mg/kg)の静注
具体例としては、体重500kgの成馬を倒馬する際には、0.1%メデトミジン溶液2.5mL(2.5mg)、および、0.5%ブトルファノール溶液2mL(10mg)を静注して、十分に鎮静が掛かったあと、5%グアイフェネシン溶液100mL(5,000mg)を投与して、すぐに1%アルファキサロン溶液50mL(500mg)を急速静注することで倒馬します。
そして、倒馬後には、以下の1~3を混和・点滴して麻酔維持を行ないます。
維持薬1: メデトミジン(0.003mg/kg/hr)を持続点滴
維持薬2: グアイフェネシン(80mg/kg/hr)の持続点滴
維持薬3: アルファキサロン(1.5mg/kg/hr)の持続点滴
具体例としては、体重500kgの成馬を一時間麻酔する場合には、0.1%メデトミジン溶液1.5mL(1.5mg)、5%グアイフェネシン溶液800mL(40,000mg)、および、1%アルファキサロン溶液75mL(750mg)の三つを混和して、合計で876.5mLの溶液を作成します。そして、成人用点滴ライン(20滴/mL)を用いて、一秒間に約5滴(=4.87滴)の速度で点滴します(輸液装置を使う場合は、予定量876.5mL、時間60分で設定)。なお、この論文中では、アルファキサロンの代わりにプロポフォールで倒馬(2mg/kg)および麻酔維持(3mg/kg/hr)するプロトコルも評価されています。
結果としては、アルファキサロンを用いた麻酔導入および点滴麻酔では、遊泳運動は見られず、一時間の全身麻酔が適切に維持されました(去勢のため)。一方、プロポフォールを用いた麻酔導入および点滴麻酔では、6頭中の1頭で遊泳運動が認められ、肉様膜緊張や体動のために、プロポフォールの追加投与を要していました。
このため、アルファキサロンを用いた点滴麻酔では、一時間にわたる馬の全身麻酔が実施できることが示されました。一方で、プロポフォールの点滴麻酔では、動脈酸素分圧が60mmHg以下まで減少したことから(無呼吸症状を呈した馬は無し)、麻酔中に酸素吸引させることで、低酸素症を予防することが推奨されています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
・馬の麻酔後肺水腫の危険因子
・プロポフォールでの馬の点滴麻酔
・ケタミンでの馬の点滴麻酔
・馬の麻酔覚醒の手法
このエントリーのタグ:
手術