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馬の疝痛症状での重要性の違い

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疝痛馬を診察する獣医師にとって、どの疝痛症状を重要視するかは意見の分かれるところかもしれません。

ここでは、前掻きなどの馬の疝痛症状のうち、どれが疝痛の重症化と関連が深いかを検証した知見を紹介します。この研究では、英国の獣医大学病院において、2012~2013年にかけて診察された1,016頭の疝痛馬において、前掻きなどの諸症状と、重症化(開腹術や安楽殺になった場合)との関連性について、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Curtis L, Burford JH, Thomas JS, Curran ML, Bayes TC, England GC, Freeman SL. Prospective study of the primary evaluation of 1016 horses with clinical signs of abdominal pain by veterinary practitioners, and the differentiation of critical and non-critical cases. Acta Vet Scand. 2015 Oct 6;57:69.

結果としては、疝痛馬が自発行動として示す症状(前掻き、膁部見返り、転げ回る、発汗、姿勢、お腹を蹴る)などは、いずれも、頻度が増したり重度になるに連れて、重症化リスクが増加する傾向が認められました(下表での黒字のオッズ比)。しかし、多因子解析モデルでは、これらは全て有意な因子ではなく、他因子との相互作用を持つことが分かりました。一方、これらの症状を1~3にスコア化して、それを合算した疼痛スコアでは、多因子モデルでも有意な危険因子であることが示されました(下表への赤字のオッズ比)。そして、疼痛スコアが1増えるごとに、疝痛が悪化する確率が二割ほど高くなる(OR=1.19)ことが分かりました。

このため、疝痛馬が自発行動として示す症状は、此処を単独で見ていても、疝痛の重症化の目安にはならないことが示され、痛みに反応する度合いは、各馬の気性や忍耐力が関与していると考えられました。なお、発汗の症状は、軽度でも重症化リスクを二倍近く増加させる(OR=1.80)ことが示され、その理由としては、前掻きや転げ回るなどの運動による発汗だけでなく、腹部疼痛から生理的に生じる発汗も含まれているためと推測されました。一方で、自発行動として示す症状を数値化して、複数の症状を合算した疼痛スコアを出すと、疝痛の重症度を推測するための指標になりうることが分かりました。

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この研究では、心拍数が1上がるごとに、重症化リスクが6%増加する(OR=1.06)という結果が示されました。つまり、疝痛馬の心拍数が40回/分から60回/分にあがると、重症化リスクは三倍以上も高くなる(1.06の20乗は3.21)ことを指しています。また、CRT延長や脈圧が弱くなることも、重症化リスクを約三倍高くする(OR=3.21およびOR=2.89)ことが示されており、疝痛の重症化と有意に相関することが報告されています。これらの症状は、いずれも全身の脱水症状や疼痛に反応して増加することから、敗血症や内毒素血症を併発して、重症化するリスクに繋がったためと考察されています。

この研究では、腹部聴診で腸蠕動音が消失している馬では、重症化するリスクが3倍以上も高くなる(OR=3.65)ことが示されました。これは、腸蠕動などの開腹術を要する疾患において、腸蠕動が止まってしまうほど病態が重い場合には、開腹術や安楽殺される危険性が増えたことを反映していると考えられます。ただ、腸蠕動音は、あるか無いかの二択でしか評価されていないため、今後の研究では、腸蠕動が減退や亢進したり、聴取できないエリアの広さなども、重症化を予測する指標になりうるかを検証すべきと提唱されています。

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