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馬の頚椎での内視鏡検査

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馬の神経器疾患の診断においては、X線検査や脊髄造影検査が実施されますが、ヒトや犬猫と異なり、MRI検査による脊髄自体の評価は困難であることから、補助的な診断手法として、脊髄の内視鏡検査が試みられています。ここでは、米国のミシガン州立大学において、馬の頚椎狭窄性脊髄症(いわゆるウォブラー症候群)に対して、頚椎の内視鏡検査を実施した症例報告を紹介します。

参考文献:
Prange T, Carr EA, Stick JA, Garcia-Pereira FL, Patterson JS, Derksen FJ. Cervical vertebral canal endoscopy in a horse with cervical vertebral stenotic myelopathy. Equine Vet J. 2012 Jan;44(1):116-9.

症例馬は、三歳齢のサラブレッド騙馬で、七ヶ月に及ぶ神経症状(後肢の制御異常など)を呈しており、初診時には、四肢の外転性運動失調と麻痺(後肢のほうが症状が顕著)が認められました。頚部X線では、椎間関節(C5-C6)での重度変性関節疾患が確認され、脊髄造影検査では、C5-C6部位での脊髄内腔の90%狭窄していることも分かりました。

症例馬は、全身麻酔下の横臥位に保定され、環椎翼頭側縁の正中線上に15cm長の皮膚切開を行ない、頭板状筋と頭半棘筋から項靭帯を剥離して右方へ寄せた後、背側頭直筋を分割することで、背側環椎後頭膜へとアプローチしました。そして、手術台を傾けて逆トレンデレンブルグ体位(後躯より頭部を挙上させた体位)にした後、硬膜とクモ膜を1.5cm切開してから、4.9mm径の内視鏡がクモ膜下腔に挿入されました。

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クモ膜下内視鏡検査(Myeloscopy)では、環軸部から第二胸椎部までが検査可能で、脊髄から分枝する神経根を視認することで、椎間部の箇所が視認でき、椎間では脊髄全周が内診されました。結果としては、C5-C6部位でのクモ膜下腔の幅は正常でしたが、C6-C7部位では背側クモ膜下腔の狭窄が確認されました。その後は、内視鏡を引き抜き、クモ膜切開創を縫合閉鎖した後、次は硬膜外腔へと内視鏡が挿入されました。

硬膜外内視鏡検査(Epiduroscopy)では、環軸部から第一胸椎部までが検査可能で、クモ膜下内視鏡と同様に、脊髄から分枝する神経根が視認され、椎間では全周が内診されましたが、硬膜外腔の狭窄などの、明瞭な異常所見は確認されませんでした。その後は、内視鏡を引き抜いて、硬膜切開創も縫合閉鎖されました。術後の剖検では、C6-C7部位での、ミエリンと軸索の慢性的な重度焦点変性が確認されました。

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著者の先行研究[1,2]では、健常馬を用いた実験によって、馬のクモ膜下内視鏡検査および硬膜外内視鏡検査は安全に実施可能であり、術後の合併症も無いことが報告されています。また、硬膜外腔よりもクモ膜下腔の内視鏡のほうが、液体貯留している内腔から病変を観察できるため、より優れた診断能が期待されると述べられています。そして、本研究では、実際の頚椎狭窄性脊髄症の罹患馬に対して同検査が実施され、脊髄造影で見られた狭窄箇所(C5-C6)とは異なる箇所のクモ膜下腔が狭窄していたことが確認されました。

この研究では、クモ膜下内視鏡検査によって、神経圧迫を生じている狭窄箇所を正確に特定できて、腹側不動化の手術などを実施すべき箇所を判断するのに有益だと考察されています。一方、この検査では、内視鏡が脊髄神経に接する場所に達するため、血管や神経線維を損傷するリスクは、硬膜外内視鏡検査のほうが少ないとも述べられています。このため、硬膜外腔やクモ膜下腔の内視鏡検査の最中には、脊髄造影のように、頚部を屈曲位や伸展位に変位させることは、合併症の危険という観点から懸念されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2011 Jul;43(4):404-11, Equine Vet J.. 2011 May;43(3):317-23.

参考文献:
[1] Prange T, Derksen FJ, Stick JA, Garcia-Pereira FL. Endoscopic anatomy of the cervical vertebral canal in the horse: a cadaver study. Equine Vet J. 2011 May;43(3):317-23.
[2] Prange T, Derksen FJ, Stick JA, Garcia-Pereira FL, Carr EA. Cervical vertebral canal endoscopy in the horse: intra- and post operative observations. Equine Vet J. 2011 Jul;43(4):404-11.

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