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馬の腰仙椎での内視鏡検査

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馬の神経器疾患の診断においては、X線検査や脊髄造影検査が実施されますが、ヒトや犬猫と異なり、MRI検査による脊髄自体の評価は困難であることから、補助的な診断手法として、脊髄の内視鏡検査が試みられています。ここでは、米国のノースカロライナ州立大学において、7頭の健常馬を用いて、腰仙椎の内視鏡検査を実施した知見を紹介します。

参考文献:
Shrauner B, Blikslager A, Davis J, Campbell N, Law M, Lustgarten M, Prange T. Feasibility and safety of lumbosacral epiduroscopy in the standing horse. Equine Vet J. 2017 May;49(3):322-328.

この研究では、被験馬を枠場に保定して、仙尾部を局所麻酔および消毒した後、術創部(仙骨より尾側で最初に可動する椎骨の頭側部)に血管拡張器を刺入することで、最小侵襲的に硬膜外腔へとアプローチしました。そして、柔軟性の内視鏡を挿入することで、硬膜外内視鏡検査(Epiduroscopy)が実施されました。

結果としては、施術した全ての馬において、立位での仙腰椎の硬膜外内視鏡検査は良好に許容されて、安全に実施可能であり、胸腰椎までの領域において、硬膜外腔に存在する多様な構造物(硬膜、脊髄神経根、脂肪組織、脈管組織など)の内診が可能でした。また、術中および術後の二週間で、合併症が確認された馬はいませんでした。

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このため、仙腰椎の硬膜外内視鏡は、尾側背部や後躯の疼痛における原因疾患を、画像診断する手法の一つとして有用であると考察されています。なお、この研究では、術後に剖検された五頭のうち一頭で、仙骨部の硬膜外腔に血腫が発見されており、リスクがまったく無い検査法とは言えないことが示されています。ただ、馬の仙腰部の脊髄組織は、有効な診断法に乏しく、また、今回の硬膜外内視鏡の手法は、全身麻酔を要しないことから、腰萎症状が進行した馬にも実施できる点はメリットとして挙げられています。

著者の先行研究[1]では、同様な手技を用いた仙腰椎の硬膜外内視鏡によって、硬膜外腔の神経脈管組織を損傷することなく、脊髄やその周囲組織の内診が可能であることが示されています。しかし、他の先行研究[2,3]では、頚椎の疾患において、硬膜外内視鏡検査よりも、クモ膜下内視鏡検査のほうが脊髄組織を直接的に視認できるため、診断能に優れていることから、X線や脊髄造影で探知できない病態を評価できる可能性が示唆されています。このため、今後の研究では、仙腰部におけるクモ膜下内視鏡においても、その実行可能性と安全性を検証する必要があると考えられました。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2017 May;49(3):322-328.

関連記事:
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参考文献:
[1] Prange T, Shrauner BD, Blikslager AT. Epiduroscopy of the lumbosacral vertebral canal in the horse: Technique and endoscopic anatomy. Equine Vet J. 2016 Jan;48(1):125-9.
[2] Prange T, Derksen FJ, Stick JA, Garcia-Pereira FL, Carr EA. Cervical vertebral canal endoscopy in the horse: intra- and post operative observations. Equine Vet J. 2011 Jul;43(4):404-11.
[3] Prange T, Carr EA, Stick JA, Garcia-Pereira FL, Patterson JS, Derksen FJ. Cervical vertebral canal endoscopy in a horse with cervical vertebral stenotic myelopathy. Equine Vet J. 2012 Jan;44(1):116-9.
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