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馬の文献:運動誘発性肺出血(Hinchcliff et al. 2005a)

「サラブレッド競走馬における運動誘発性肺出血と競走能力の関係」
Hinchcliff KW, Jackson MA, Morley PS, Brown JA, Dredge AE, O'Callaghan PA, McCaffrey JP, Slocombe RE, Clarke AE. Association between exercise-induced pulmonary hemorrhage and performance in Thoroughbred racehorses. J Am Vet Med Assoc. 2005; 227(5): 768-774.

この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)と競走能力(Racing performance)の関係を検証するため、2003年の三月~六月にかけての、二歳~十歳のオーストラリアのサラブレッド競走による744レースにおける、レース後の内視鏡検査(Endoscopy)、レース結果、および、各馬の個体データの比較解析が行われました。

この研究では、内視鏡下での肺出血所見の準定量的評価(Semi-quantitative evaluation)のため、以下のような四段階の点数化システムが用いられました。
グレード1:数個の小血塊、または二個以下の小血流(気管長軸の四分の一以下の幅の狭い血流)が、気管または気管分岐部から見える主要肺胞に認められる所見(Presence of 1 or more flecks of blood or ≤ 2 short [less than a quarter of the length of the trachea], narrow [less than 10% of the tracheal surface area] streams of blood in the trachea or mainstem bronchi visible from the tracheal bifurcation)。
グレード2:一個の大血流(気管長軸の半分以上)または二個以上の小血流が、気管周回の三分の一以下を覆っている所見(Presence of a long [more than half the length of the trachea] stream of blood or more than 2 short streams occupying less than a third of the tracheal circumference)。
グレード3:複数の明瞭な血流が、気管周回の三分の一以上を覆っているが、胸郭入口の血液貯留はない所見(Multiple distinct streams of blood covering more than a third of the tracheal circumference but without evidence of blood pooling at the thoracic inlet)。
グレード4:複数の癒着血流が気管内面の九割以上を覆って、胸郭入口に血液貯留が起きている所見(Multiple coalescing streams of blood covering more than 90% of the tracheal surface with pooling of blood at the thoracic inlet)。

結果としては、運動誘発性肺出血のグレードが1以下であった馬では、2以上であった馬に比べて、勝利する確率が四倍も高く(オッズ比:4.0)、上位三着以上に入る確率が二倍近くも高く(オッズ比:1.8)、獲得賞金の上位10%(90th percentile or higher for race earnings)に含まれる確率が三倍以上も高かった(オッズ比:3.03)ことが示されました。また、運動誘発性肺出血のグレードが1以上であった馬では、そうでなかった馬に比べて、着順が下位になった割合が有意に多かった事が報告されています。このため、サラブレッド競走馬における運動誘発性肺出血は、競走能力に悪影響を及ぼして、着順や獲得賞金の低下につながることが示唆されました。

一般的に、競走馬における運動誘発性肺出血は、内視鏡検査を判定指標とした場合には、五割以上の馬に発症している事が知られています(Pascoe et al. AJVR. 1981;42:703, Raphel and Soma. AJVR. 1982;43:1123, Sweeney et al. AJVR. 1990;51:772)。しかし、運動誘発性肺出血の発症が競走能力に及ぼす影響については、多くの相反する結果(Conflicting results)が示されており、運動誘発性肺出血の発症率と競走成績には相関が無かったという報告や、運動誘発性肺出血の発症によって競走成績が下がったという報告、または、運動誘発性肺出血を発症している馬ほど競走成績が良かったという報告などがあります(Rohrbach. JAVMA. 1990;196:1563, Birks et al. EVJ Suppl. 2002;34:375, MacNamara et al. JAVMA. 1990;196:443)。

この研究は、オーストラリアのサラブレッド競走馬が対象であったため、レース前のフロセマイド投与は行われていませんでした。一方、他の文献では、フロセマイド投与が行われた条件下でのデータを見ると、運動誘発性肺出血の発症の有無は、競走成績とは有意な相関が無かった、という知見が示されていますが(Pascoe et al. AJVR. 1981;42:703, Raphel and Soma. AJVR. 1982;43:1123, Birks et al. EVJ Suppl. 2002;34:375)、この場合の問題点としては、(1)運動誘発性肺出血の発症には関わり無く、フロセマイドの投与自体が、競走能力を上げる効能を示すこと(Gross et al. JAVMA. 1999;215:670)、(2)フロセマイド投与によって、運動誘発性肺出血の発症を予防することは出来なくても、その重篤度(Severity)が減退した結果、競走成績の向上につながったケースも考えられること、等が挙げられています。

この研究では、運動誘発性肺出血のグレードが1であった馬と、運動誘発性肺出血を発症していなかった馬のあいだでは、勝利する確率および上位三着以上に入る確率は、有意差が無かったというデータが示されました。これは、軽度の肺出血であれば、競走能力には影響しないことを示している、という解釈も成り立ちます。また、これらの馬の中には、競走能力の高さが肺出血の発現につながった馬も存在するかもしれない(肺組織の脈管内圧が高いため?)、という推測もできる反面、これらの馬における肺出血が、その後、より重篤な肺出血病態へと進行(Progression)していった可能性は否定できない(=どんなに少量の運動誘発性肺出血でも軽視するべきではない)、という考察がなされています。

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