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子馬の菌血症と将来の競走能力

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子馬の病気を治療するときには、経済動物である馬として、将来的な運動能力に及ぼされる影響も考慮する必要があります。

ここでは、子馬の菌血症(Bacteremia)が治った後、将来的に競走馬としてのレース能力に及ぼす影響を評価した知見を紹介します。この研究では、米国のフロリダ大学の大動物病院において、1982~2007年にかけて、菌血症の治療を受けた423頭の子馬を対象として、生存率に関わる因子の解析と(オッズ比[OR]の算出)、その後の競走馬としてのレース成績を異母兄弟馬と比較することで、長期的な影響が検証されました。

参考文献:
Sanchez LC, Giguere S, Lester GD. Factors associated with survival of neonatal foals with bacteremia and racing performance of surviving Thoroughbreds: 423 cases (1982-2007). J Am Vet Med Assoc. 2008 Nov 1;233(9):1446-52.

結果としては、成長後にレース出走を果たした馬の割合は、対照馬では80%で、菌血症馬では67%となり、有意差は無いことが分かりました。また、一回でも勝利した馬の割合は、対照馬では59%、菌血症馬では52%であり、やはり有意差は認められませんでした。一方、生涯獲得賞金は、対照馬では平均12,931ドルなのに対して、菌血症馬では平均3,967ドルと有意に少ないことが分かりました。さらに、競走能力を示すSSI指数も、対照馬では平均0.43、菌血症馬では0.23と有意に低値となっていました。

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このため、菌血症から回復した子馬では、将来的に競走馬として出走することは出来るものの、獲得賞金やSSI指数は低いことから、競走成績が下がることは否定できないと考えられました。この要因としては、細菌性関節炎や肺炎などにより、骨格や呼吸器の健常な成熟が妨げられて、レース能力そのものに悪影響が出たことが考えられ、それに加えて、病歴を考慮した馬主や調教師が、クラスの低いレース(=賞金の少ないレース)に意図的に出走させていた、というバイアスが生じた可能性もあるのかもしれません。

この研究では、菌血症の子馬での生存率は60%(254/423頭)となっており、細菌性関節炎を発症すると生存率が約1/5に減少し(OR=0.22)、桿状核好中球数が増加(>1/mL)すると生存率が約2/3に減少し(OR=0.67)、クレアチニン値が上昇(>1mg/dL)すると生存率が約一割減少する(OR=0.88)ことが分かりました。このため、これらの検査値を予後判定の指標とすると同時に、細菌感染や腎不全(または脱水)へのアグレッシブな治療を実施することで、生存率を向上できると推測されています。

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一方、菌血症を発症した子馬のうち、下痢を起こした場合には生存率が三倍以上高くなる(OR=3.58)というデータも示されました。勿論、下痢になること自体には、医学的なメリットは無いため、おそらく、これらの症例では、下痢の原因である大腸炎において、腸内細菌が全身循環に迷入して、軽度かつ一過性の菌血症を起こしただけだったと推測されます。その場合、下痢以外の菌血症(例:初乳摂取不全や尿膜管膿瘍から重度の菌血症を発症した症例など)のほうが予後不良となるリスクが高くなり、それを比較対象として解析することで、「下痢」が生存率を向上させる因子かのようなオッズ比が算出されたものと考えられます。

この研究では、血液の細菌培養の結果、大腸菌が最も多く分離されており、全症例の31%に達していました。このため、少なくとも米国のこの地域では、菌血症を発症した子馬では、培養検査が出るまでの期間において(もしくは培養検査が不実施の場合も)、大腸菌をターゲットとした治療計画を立てることが推奨されています。また、感受性試験の結果を見ると、エンロフロキサシンに耐性を持つ菌が、年々増加している徴候が認められました。このため、抗生剤スチュワードシップの観点からも、この薬剤を第一選択肢とすることは避けて、耐性菌の増加を抑える取り組みが重要だと考えられました。

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このエントリーのタグ: 子馬 治療 競馬

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