新生子馬の疝痛での予後
話題 - 2022年12月18日 (日)

ヒト医療に産婦人科や小児科があるのと同様に、生まれたばかりの新生子馬の病気に対する獣医療では、成馬とは違った知識と技術が必要になります。
ここでは、新生子馬の疝痛での治療成績を評価した研究を紹介します。この研究では、米国のペンシルバニア大学の馬病院において、2000~2010年にかけて、疝痛の診断や治療が行なわれた137頭の新生子馬(30日齢以下)での医療記録の回顧的解析が行なわれました。
参考文献:
Mackinnon MC, Southwood LL, Burke MJ, Palmer JE. Colic in equine neonates: 137 cases (2000-2010). J Am Vet Med Assoc. 2013 Dec 1;243(11):1586-95.
結果としては、新生子馬の疝痛では、内科的治療が選択されるものが89%と圧倒的に多く、開腹術の適応となる疾患としては、小腸の絞扼性閉塞が最も多いことが報告されています。発症率の高い疝痛原因としては、全腸炎が最も多く(27%)、次いで、胎便停滞(20%)、一過性の内科的疝痛(19%)となっていました。一般的に、新生子馬の絞扼性疾患では、鎮痛剤に不応性の重度な疼痛反応を示すことが殆どであり、複数の疾患を併発しているケースが64%を占めていました。

この研究では、新生子馬の疝痛における血液検査所見の中で、特に乳酸値が疾患別に有意な差異が生じる傾向が見られ、壊死性全腸炎、絞扼性小腸絞扼、細菌性腹膜炎では、顕著に高い測定値を示していました。上図内の記号は下記です。EC:全腸炎、NEC:壊死性全腸炎、SISO:絞扼性小腸閉塞、Meconium:胎便停滞、Medical:内科的疝痛、Other:その他の疾患、Overo:致死性白子馬症候群、Septic peritonitis:細菌性腹膜炎。
この研究では、新生子馬の疝痛での短期生存率は、内科的治療(75%)と外科的治療(73%)で有意差は無かったものの、いずれの場合も、生存できるのは約3/4の症例に留まっていました。一方で、退院した症例(=短期生存)を見ると、長期生存率は93%にのぼっており、成長後に意図した用途に使役できた割合は83%となっていました。なお、複数の疾患を呈していた子馬の生存率(72%)は、そうでない子馬の生存率(87%)と有意な差はありませんでした。

この研究では、疝痛を呈した新生子馬を、生存馬と非生存馬(入院中に安楽殺となった子馬)に分類した場合、複数の血液検査所見で有意差が認められました。具体的には、血中乳酸濃度は、生存馬(3.1mmol/L)よりも、非生存馬(8.2mmol/L)のほうが有意に高く、血糖値では、生存馬(139.5mg/dL)よりも、非生存馬(91.4mg/dL)のほうが有意に低くなっていました。また、総蛋白濃度は、生存馬(5.7g/dL)よりも、非生存馬(5.1g/dL)が低値を示しており、クレアチニン濃度では、生存馬(2.3mg/dL)よりも、非生存馬(5.0mg/dL)のほうが有意に高値となっていました。今後の研究では、これらの検査値を用いた予後判定の鑑別能を評価する(感度、特異度、陽性/陰性的中率)ことが重要だと言えます。
Photo courtesy of J Am Vet Med Assoc. 2013 Dec 1;243(11):1586-95.
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