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馬の難産へのアプローチ

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馬の難産は救急医療の一つで、短時間で適切な判断と処置を下すことで、子馬と母馬の命を救うことが可能になります。

ここでは、二次診療施設での馬の難産処置に関して、アプローチ方針と治療成績を検証した知見を紹介します。この研究では、米国のケンタッキー州の馬病院にて、1986~1999年にかけて実施された247件の難産における医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Byron CR, Embertson RM, Bernard WV, Hance SR, Bramlage LR, Hopper SA. Dystocia in a referral hospital setting: approach and results. Equine Vet J. 2003 Jan;35(1):82-5.

この二次診療施設では、難産治療のアプローチとして、①立位で介助しながらの経腟出産(AVD)、②麻酔下および後躯吊り上げで制御しながらの経腟出産(CVD)、③切胎術(立位または麻酔下)、④帝王切開(麻酔下)、という四種類が適応されました。通常は、AVDは稀で、来院してすぐにCVDが試みられ、15分間で経腟娩出できないという場合には、子馬が生きていれば速やかに帝王切開を実施し、子馬が死亡していれば、母馬の容態を見ながら、切胎術または帝王切開が選択されました。今回の247件では、CVDが71%と最も多く、切胎術が4%、帝王切開が25%という内訳でした。

結果としては、247件の難産のうち、子馬が生きて出産された症例は42%でしたが、そのうち、子馬が生きて退院できたのは29%に留まっていました。なお、母馬が生きて退院できた症例は91%に上っていました。また、来院から出産までの時間は、子馬が退院した場合(平均23分)と、子馬が死亡した場合(平均24.8分)とで有意差は無かった一方で、破水(漿尿膜破裂)から出産までの時間を見ると、子馬が生きて退院した場合(平均71.7分)に比較して、子馬が死亡した場合(平均85.3分)では有意に長いことが分かりました。

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このため、難産の経過時間が長くなることは、子馬の死亡率の高さと相関することが分かり、子馬が生存した場合と死亡した場合の差は、僅かに13.6分間であったことから、迅速な難産処置を実施することが、子馬の生死に直結することが再確認されたと言えます。さらに、来院から出産までの時間は、子馬が生存した場合と死亡した場合で有意差が無かったため、いかに来院までの時間を短縮するか(つまり、二次診療施設へ搬送するという判断を遅延させないか)、という点が重要であると考えられました。

この研究では、調査対象の地域における繁殖牝馬の記録を見ると、難産を経て子馬が生きて出産される確率は67%であったことが報告されています(難産なしで子馬が生きて出産される確率は84%)。これに比較すると、二次診療施設に搬送された難産における子馬の生存率(29%)は半分以下と、顕著に低くなっており、現場での難産介助が手間取った際に、大病院へ送るという判断が遅れないようにすることの重要性を再認識させるデータであると言えます。

この研究では、CVDによって子馬が生きて退院できた割合は32%であり、帝王切開によって子馬が生きて退院できた割合は31%と、ほぼ同程度となっていました。また、母馬が難産と同じ年に妊娠して、翌年に出産した割合は、CVDでは58%、帝王切開では60%で、有意差はありませんでした。このため、子馬の生存率と、母馬の繁殖能力維持の点から見て、CVDと帝王切開は同等に優れた方法であると考えられ、最初の15分間はCVDを試みて、帝王切開を避けられる場合には避ける、という難産介助のアプローチを妥当とするデータが示されたと考察されています。

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この研究では、子馬が死亡していることが確認され、しかも、CVDでの娩出が困難であった場合には、産道を損傷するリスクを避けるため、殆どの症例に対して、切胎術よりも帝王切開が選択されました。子馬の生死に関わらず、症例群全体としては、母馬が生きて退院できた割合は、帝王切開では89%、切胎術では56%となっていました(CVDでは94%)。このため、死亡した子馬を摘出するときには、経済的な理由がない限りは、積極的に帝王切開を実施することが推奨されています。

馬の難産に関する過去の文献[1]を見ると、子馬が生きて出産された症例は11%で、そのうち、子馬が生きて退院できたのは僅か5%であった、という報告もありますが、この文献での難産の経過時間は5~6時間となっていました。一方で、今回の研究では、難産の経過時間は二時間以下となっており、多くの症例が短時間で搬送されてくる地理的な好条件であったことが、子馬の生存率の高さに繋がったと考察されています。

なお、過去の文献[2]を見ると、難産をした同じ年に妊娠して、翌年に出産できる確率は、今回の研究よりも顕著に低い傾向が示されています。この理由としては、今回の調査対象の牧場が、短時間で二次診療施設に搬入できる地理的条件であったことに加えて(=早期治療によって産道損傷が軽度で済んだ)、アグレッシブに馬の繁殖を試みる方針であったため、難産後にも一年間の空胎期間を置かず、同じ年に種付けと妊娠を果たした割合が多くなった可能性もあると推測されています。一般的には、難産から次の種付けまでは、六週間以上を空けることが推奨されています。

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参考文献:
[1] Freeman DE, Hungerford LL, Schaeffer D, Lock TF, Sertich PL, Baker GJ, Vaala WE, Johnston JK. Caesarean section and other methods for assisted delivery: comparison of effects on mare mortality and complications. Equine Vet J. 1999 May;31(3):203-7.
[2] Juzwiak JS, Slone DE Jr, Santschi EM, Moll HD. Cesarean section in 19 mares. Results and postoperative fertility. Vet Surg. 1990 Jan-Feb;19(1):50-2.

参考動画:FOALinMARE extended trailer (Steven Bruneel)





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