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馬の難産の原因と重篤度

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馬の難産は救急医療の一つで、短時間で適切な判断と処置を下すことで、子馬と母馬の命を救うことが可能になります。

ここでは、馬の難産の原因や重篤度によって、生存率や合併症に及ぼす影響を調査した知見を紹介します。この研究では、イタリアのボローニャ大学の獣医病院において、2004~2020年にかけて診察を受けた、222頭のスタンダードブレッドの妊娠牝馬(正常分娩165頭、難産57頭)における医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Lanci A, Perina F, Donadoni A, Castagnetti C, Mariella J. Dystocia in the Standardbred Mare: A Retrospective Study from 2004 to 2020. Animals (Basel). 2022 Jun 8;12(12):1486.

この研究では、産後合併症の発生率は、正常分娩では15%であったのに対して、難産では42%と顕著に高くなっていました。このうち、正常分娩では、母馬の死亡率は0%であり、胎膜停滞(6%)や腟血腫(5%)などが起こっていた一方で、難産では、母馬の死亡率は8.7%にのぼり、胎膜停滞(52%)が最も多く起こっていました。

この研究において、正常分娩では、子馬の死亡率は0%であり、産後に病気になった子馬は12%でした(その殆どが新生児脳炎)。一方、難産では、子馬の死亡率は14%に及んでおり、産後に病気になった子馬も51%に達していました(そのうち九割が周産期窒息症候群)。なお、両群のあいだで、性別や出生時体重には有意差は認められませんでした。

この研究では、子馬の健康状態を表したAPGAR スコア[1,2]を見ると、正常分娩(中央値10)よりも難産(中央値8)において有意に低値を示していました。また、血液検査所見では、難産の子馬のほうが、PCV値、白血球数、IgG値などが有意に低値を示しており、CK値やCa濃度などは有意に高値となっていました。

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この研究では、難産を重篤度によって三段階に分類しており、立位にて限定的な介助のみで娩出できたものを軽度難産、立位にて産科器具を用いた牽引で娩出できたものを中程度難産、麻酔下での制御介助(CVD)または切胎術・帝王切開を要したものを重度難産、と定義しました(上表)。その結果、軽度や中程度の難産では、母馬の死亡率は4%、子馬の死亡率は9%となっていた一方で、重度の難産では、母馬の死亡率が25%で、子馬の死亡率が67%に達していました。

また、分娩のステージII(胎児の頭部や肢が外陰部から出てから娩出完了まで)の長さ(平均値)を見ると、軽度難産は16分、中程度難産は25分と、いずれも危険域と言われる40分は下回っていたことが分かりました(重度疝痛では75分)。また、APGARスコアを見ると、軽度難産では中央値9であったものの、中程度難産では5、重度難産では3と顕著に低値となっていました。そして、重度難産では、子馬の血液検査の所見でも、顕著に悪い値を示していました。

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さらに、この研究では、難産の原因を、母馬由来、子馬由来、胎膜由来、および、複合した原因という四種類に分類して解析しています(上表)。このうち、子馬由来の原因としては、子馬の姿勢や向きの異常が挙げられ、胎膜由来の原因としては、早期胎盤剥離や臍帯捻転が含まれました。そして、特に、胎膜由来や複合原因の場合には、子馬および母馬の死亡率が上昇する傾向が認められました。

そして、難産原因の分類別に、難産の重篤度の割合を見てみると(下表)、子馬由来の原因が存在する場合には、そのうち31%が重度難産に至っていることが分かりました。また、複合した原因が存在している場合には、実に70%が中程度以上の難産に、20%が重度難産に至っていることが示されています。一方で、母馬や胎膜由来の原因は、その八割以上が軽度難産に留まっていました。

さらに、妊娠期間中の検査所見を見てみると、胎盤炎や胎盤浮腫など、難産リスクの高い疾患を持つ牝馬では、難産の発生率が47%に上っており、そうでない牝馬での難産の発生率(4.9%)よりも顕著に高くなっていました。

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この研究では、馬の難産へのアプローチとして、まず、立位にて用手での分娩介助(AVD)が試みられ、その際、胎児の姿勢や向きなどの異常が確認されれば、産科器具を用いたAVDが実施されました。そして、AVD開始から15分以内に子馬が娩出されない場合には、母馬に全身麻酔をかけて、後躯を吊り上げての分娩介助(CVD)に切り替えられました。その後、CVD開始から20~25分以内に子馬が娩出されない場合において、子馬が生きていれば帝王切開に移行され、子馬が死亡している場合には、帝王切開または切胎術が実施されました。

この研究における興味深いデータとしては、分娩ステージIIが40分に達していない症例でも、軽度または中程度の難産に陥ったケースがあり、その結果、特に中程度の難産では、子馬の死亡率が20%に達していました。そして、難産を原因別に見ると、子馬由来の原因や複合した原因があった症例では、中程度以上の難産に至っているケースが多いことも分かりました。このため、子馬の姿勢異常や複合原因が確認されれば、分娩のステージIIは40分間という基準に捕らわれず、速やかにアグレッシブな分娩介助に踏み切るべきである(CVDや帝王切開)という考察がなされています。

一方で、この研究では、早期胎盤剥離(いわゆるレッドバッグ徴候)や臍帯捻転などの胎膜由来の原因がある場合には、軽度難産で済むことが多いにも関わらず、母馬や子馬の死亡率は顕著に高くなる傾向が認められました。つまり、胎膜由来の原因では、子馬の娩出がスムーズに達成されたとしても、母馬の胎膜停滞に続発する産褥性蹄葉炎や、子馬の低酸素症による窒息症候群など、産後の合併症を引き起こした可能性が高いと考えられます。このため、胎膜由来の原因が確認された場合にも、速やかにAVDやCVDを開始することで、子馬の低酸素症を最小限に抑え、また、娩出後の母馬に対しても、子宮洗浄等の必要な処置を積極的に実施して、合併症の予防に努めることが推奨されています。

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この論文の結論に関しては、賛否両論が生まれる可能性があります。この研究における分娩介助のアプローチでは、子馬の姿勢異常が発見された場合に、産科器具を用いたAVDを試みていますが、もし速やかに全身麻酔をかけてCVDを開始していれば、子馬を子宮側に押し戻したり、産道が弛緩することで、異常姿勢を短時間で矯正できた可能性があります。また、CVDも最長25分間にわたって試みているため、もっと早いタイミングで帝王切開を実施していれば、子馬の死産を防いだり、低酸素症による産後合併症を抑えられた可能性は否定できません。この辺りは、各診療施設での難産介助のバリエーションになるため、治療成績を積み重ねて、より良いアプローチの方針を構築していく必要があると言えます。

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参考文献:
[1] Vaala, W.E. Perinatology. In The Equine Manual, 2nd ed.; Higgins, A.J., Snyder, J.R., Eds.; W.B. Saunders: Philadelphia, PA, USA, 2006; pp. 803–804.
[2] Vaala WE. Peripartum asphyxia. Vet Clin North Am Equine Pract. 1994 Apr;10(1):187-218.

参考動画:AVD (Minor Dystocia, Attended Foaling)


参考動画:CVD (Difficult horse birth with Vet assistance)





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このエントリーのタグ: 繁殖学 検査 治療

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