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馬の難産での組織的治療

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馬の難産は救急医療の一つで、短時間で適切な判断と処置を下すことで、子馬と母馬の命を救うことが可能になります。

ここでは、馬の難産に対する組織的治療プロトコル(CDMP: Coordinated dystocia management protocol)の効果を検証した知見を紹介します。この研究では、米国のペンシルバニア大学の馬病院において、1991~2004年にかけて診療を受けた71頭の難産症例における医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Norton JL, Dallap BL, Johnston JK, Palmer JE, Sertich PL, Boston R, Wilkins PA. Retrospective study of dystocia in mares at a referral hospital. Equine Vet J. 2007 Jan;39(1):37-41.

この研究で検証されたCDMPでは、難産の症例が入院した直後、子馬の姿勢を確認して(2分)、気管挿管(2分)、AVD(10分)、CVD(15分)と進んで、入院から30分以内に娩出されなければ帝王切開を行なうという組織立った難産治療のプロトコルになっています(下図)。なお、この研究では、CDMPの導入前の症例(16頭)と、導入後の症例(55頭)で医療記録が比較されました。また、難産症例は、入院中に難産となった場合(危険症例)、または、難産の治療のために入院してきた場合(救急症例)に分類されています。

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結果としては、CDMP導入前と導入後を比較すると、入院から娩出までに要した時間が32分ほど短縮されたことが分かり、特に緊急症例においては、入院からAVDでの娩出までに要した時間(50分→17分)、入院から帝王切開での娩出に要した時間(93分→64分)および、入院から切胎術での娩出に要した時間(167分→90分)などが有意に短縮されていました(下表の赤文字)。なお、分娩ステージII開始から入院までの長さは、導入前よりも導入後のほうが一時間近く長くなっていました(有意差は無し)。

この研究では、緊急症例の治療成績を見ると、子馬の生存率が僅かに向上(10%→13%)しており、死亡した状態で娩出された症例(死産)を除いた場合にも、子馬の生存率は僅かながら向上(41%→43%)していました(何れも有意差は無し)(下表)。また、危険症例においても、死産を除いた場合の子馬の生存率は僅かに向上(83%→86%)していたことが報告されています(有意差は無し)。

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この研究では、組織立った難産治療プロトコル(CDMP)を導入することで、子馬を娩出させるまでの時間を30分以上も短縮できたものの、子馬の生存率には有意差は認められませんでした。この要因としては、分娩ステージIIの開始から入院までの時間が、CDMP導入前よりも導入後のほうが56分も長くなっていたことが挙げられています(上表)。つまり、一次診療の現場で、難産の診断、および、二次診療施設へ搬送するという判断が迅速に下された症例においては、CDMPによる短時間での難産処置の恩恵を受けて、子馬の生存率の向上が期待できると考察されています。

この研究では、CDMP導入後の緊急症例における娩出方法としては、帝王切開が最も多く(43%)、次いで、CVD(35%)、AVD(11%)、切胎術(11%)となっていましたが、CDMP導入前には、CVD適応されたケースは殆ど無かったと述べられています。つまり、開腹術の侵襲を回避できるCVDでの娩出が大幅に増えたことになり、この理由としては、CDMPによって入院から迅速に処置が進められることで、帝王切開の前に、CVDを試みる時間を確保できたというメリットが挙げられています。

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関連記事:
・馬の難産へのアプローチ
・馬の難産の前兆
・馬の難産の原因と重篤度
・馬の出産についての基礎事項

参考資料:
Neonatal Intensive Care Service, Penn Vet's Veterinary Hospitals, New Bolton Center's Hospital for Large Animals (Kennett Square, PA, USA)

参考動画:New Bolton Center neonatal intensive care unit





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このエントリーのタグ: 繁殖学 検査 治療 手術

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