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高齢馬の健康管理と好発疾患

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近年、馬の寿命が延びて、高齢馬の飼養頭数が増えるに連れて、高齢期における病気の治療や健康管理が重要になってきています。

ここでは、高齢馬での健康管理の現状を調査した知見を紹介します。この研究では、英国の20箇所の馬病院の登録馬から無作為に抽出された高齢馬(15歳以上)の馬主や管理者に対して、手紙にて自馬の健康管理や病気に関する聞き取り調査が実施されました。

参考文献:
Ireland JL, Clegg PD, McGowan CM, McKane SA, Pinchbeck GL. A cross-sectional study of geriatric horses in the United Kingdom. Part 2: Health care and disease. Equine Vet J. 2011 Jan;43(1):37-44.

結果としては、調査対象となった918頭の高齢馬のうち、獣医師による定期的な健康診断を受けている馬は69%に留まっていました。それに対して、77%の馬主や管理者が、少なくとも一つの病気の臨床徴候を認識しており、そのような臨床徴候の数は、加齢と共に増加する傾向が認められました。この内訳は、筋委縮(20%)が最も多く、次いで、削痩(17%)、発咳(14%)、蹄質低下(14%)、毛質低下(13%)などが含まれました。

この研究では、直近一年で少なくとも一回の異常な徴候に気付いた馬主や管理者は58%に達しており、内訳は、跛行(24%)が最も多く、次いで、外傷(10%)、疝痛(9%)、呼吸器徴候(7%)、皮膚病(7%)などが含まれました。しかし、これらの馬主や管理者のうち、異常徴候の原因となる病名を知っている馬主は31%に過ぎませんでした。この内訳は、変性関節疾患(8%)が最も多く、次いで、運動器疾患(5%)、蹄葉炎(3%)、クッシング病(3%)、回帰性気道閉塞(3%)となっていました。

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この研究では、破傷風のワクチン接種馬は83%、馬インフルのワクチン接種馬は66%に留まっており、加齢に伴って予防接種を受けていない馬の割合が増加する傾向にありました。一方で、年一回以上の歯科処置を受けている馬は74%に上っていました。また、加齢や騎乗回数の減少と相関するように、装蹄の間隔が長くなる傾向があり、定期的な装蹄を受けていない馬の58%で、何らかの蹄病の持病を持っていました。

以上のように、高齢馬の馬主や管理者では、定期的な健康診断や装蹄を省略している割合が高くなっており、その傾向は、加齢や騎乗回数の減少に伴って顕著になっていました。また、六割近くの高齢馬では、異常な臨床徴候が認識されながら、その原因を探索して病名を確認していたのは約半数に留まっていました。この理由としては、高齢馬が示す異常な徴候が、加齢によって自然に起こるものと見なされ、何かの病気に由来するとは考えられていないという可能性が指摘されています。

このため、獣医師や装蹄師が高齢馬の予防接種や装蹄を行なうときには、目的行為以外の健康問題にも注意を払って、異常な徴候を指摘することが推奨されています。また、高齢馬に好発する疾患に関して、馬主や管理者に情報発信することで、安易に加齢のせいだと片付けてはいけない徴候を周知してもらうことも提唱されています。なお、この研究では、補足的なケア(ハーブ治療やマッサージ等)が施されているケースは、全体の約三割にのぼっており、高齢馬への馬主の愛情は非常に強いことが示唆されています。

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参考文献:
Ireland JL, Clegg PD, McGowan CM, McKane SA, Pinchbeck GL. A cross-sectional study of geriatric horses in the United Kingdom. Part 1: Demographics and management practices. Equine Vet J. 2011 Jan;43(1):30-6.

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