馬の文献:運動誘発性肺出血(Costa et al. 2006)
文献 - 2022年12月23日 (金)

「ブラジルの平地競走のサラブレッドにおいて、レース距離、馬場状態、レースの季節が、運動誘発性肺出血に与える影響の評価」
Costa MF, Thomassian A. Evaluation of race distance, track surface and season of the year on exercise-induced pulmonary haemorrhage in flat racing thoroughbreds in Brazil. Equine Vet J Suppl. 2006; (36): 487-489.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)の危険因子(Risk factors)の検討、および、フロセマイド投与による運動誘発性肺出血の予防効果(Prophylactic effect)を評価するため、2000~2001年にかけて、1003頭のブラジルの平地競走サラブレッドの、2118回のレース後の内視鏡検査(Endoscopy)、および、各馬のデータとの比較が行われました。
この研究では、多因子ロジスティック回帰解析(Multivariate logistic regression analysis)の結果から、持続性の運動誘発性肺出血を発症していた馬では、着外となる確率が三割以上も高い(オッズ比:1.31)ことが示され、また、肺出血のグレードが1上がるごとに、着外となる確率が二割以上も高くなる(オッズ比:1.26)ことが示されました。このため、“フロセマイド投与による治療が奏功した馬では、より良い競走成績を収めていた”(Horses successfully treated with furosemide were more likely to obtain good results)という考察がなされていますが、これは、やや飛躍した理論立てのように思えてしまいます。
そして、今回の研究では、フロセマイドの投与郡と非投与郡という比較はなされておらず、その上、全頭にフロセマイドが投与されていたにも関わらず、全体としての運動誘発性肺出血の発症率は62%に上っていました。このため、今回のデータのみに基づいて、“運動誘発性肺出血の発症馬にフロセマイドを投与することで、競走能力の向上につながる傾向が認められた”(There was a tendency towards improvement in performance after administration of furosemide in bleeders)という結論付けをするのは、かなり無理があると言えるのではないでしょうか。
この研究では、多因子ロジスティック回帰解析の結果から、冬季のレースでは、春季に比べて、運動誘発性肺出血を発症している確率が八割近くも高い(オッズ比:1.78)ことが示されました。また、1600m以上のレースでは、1600m未満のレースに比べて、運動誘発性肺出血を発症している確率が四割以上も高い(オッズ比:1.41)ことが示されました。さらに、雨天の馬場状態では、晴天の場合に比べて、運動誘発性肺出血を発症している確率が二割以上も高い(オッズ比:1.23)ことが示されました。これらは、サラブレッド競走馬の運動誘発性肺出血における、有意な危険因子であると推測されますが、それぞれの因子がどのような機序によって、発症に関与したかについては、この論文の考察内では明瞭には結論付けられていませんでした。
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