馬同士の喧嘩を防ぐには
話題 - 2022年12月23日 (金)

一般的に馬は、他の家畜(牛/豚/羊など)よりも筋力が強いため、多頭での放牧時に喧騒が起こると、咬傷や蹴傷による外傷を生じる可能性が高いと言えます。
ここでは、馬群内での喧嘩による外傷の発症率や、それに関わる危険因子を調査した知見を紹介します。この研究では、スイス国内の馬牧場に対して聞き取り調査が行なわれ、計2,912頭の飼養馬における、馬同士の喧嘩(咬傷や蹴傷)を含む健康問題の年間発生状況(獣医師の往診を要した問題のみ)、および、オッズ比(OR)の算出によって危険因子が解析されました。
参考文献:
Knubben JM, Furst A, Gygax L, Stauffacher M. Bite and kick injuries in horses: prevalence, risk factors and prevention. Equine Vet J. 2008 May;40(3):219-23.
結果としては、跛行や疝痛などの全てのタイプを含む健康問題の年間総数は897件でしたが、このうち25.8%(231/897件)を外傷が占めており、そのうち、馬同士の喧嘩による咬傷や蹴傷は5.6%(50/897件)に上っていました(外傷の総数のうち21.6%)。また、馬の頭数で見てみると、健康問題を起こしたのは年間718頭でしたが、このうち外傷を起こした馬は7.7%(223/2,2912頭)を占めており、そのうち、咬傷や蹴傷は1.7%(50/2,912頭)となっていました(全疾患馬の22.4%)。

このため、馬に起こる健康問題のうち、およそ20件に一件は、馬同士の喧嘩によるケガ(咬傷や蹴傷)であり、獣医師が往診した疾患馬のうち、およそ60頭に一頭は、馬同士の喧嘩による外傷を負っていたことが分かりました。このため、馬群内での喧騒を制御して、咬傷や蹴傷などを未然に防ぐことで、馬のウェルフェアの向上を図れるという考察がなされています(理論的には、馬同士の喧嘩をゼロにできれば、外傷を発症する馬を二割以上も減らせる)。
この研究では、ウォームブラッド、サラブレッド、アラブの三品種においては、他の品種に比べて、馬同士の喧嘩による咬傷や蹴傷を起こす危険が四倍以上も高い(OR=4.3)ことが分かりました。また、常に多頭放牧されている馬に比べて、馬房で個別飼育されている馬では、馬同士の喧嘩による咬傷や蹴傷を起こす危険が五割増しになる(OR=1.5)ことも分かりました。一方、競技馬での咬傷や蹴傷の発生率(2.6%)は、練習馬での発生率(1.5%)よりもやや高い傾向にありました(有意差なし)。
このため、馬同士の喧嘩によるケガは、好発する品種に偏りがあり、また、普段から群で飼育されている馬では、馬同士の交流に慣れていて、咬傷や蹴傷になるような乱暴な喧騒は起こしにくいことも示唆されました。ただ、この三つの品種(ウォームブラッド、サラブレッド、アラブ)では、気性も三者三様であり、また、同じ品種でも個体の性格には多様性が大きいため、これらの品種での多頭放牧を禁忌とするにはエビデンス不足だと言えます。

一方、普段は個別に飼育されている馬を、多頭で放牧場に放つときには、同時に出す馬の顔ぶれに留意したり、気性の荒い馬は一頭でのパドック放牧にするなど、馬同士の喧嘩を予防する対策が有用だと考えられました。なお、練習馬よりも競技馬での咬傷や蹴傷が多かった理由は、明確には結論付けられていませんが、競技能力の高い馬ほど、後躯の筋力も強く、蹴ったときに重い外傷になり易かったという可能性が考えられます。
なお、この研究では、外傷後の四週間において飼養法変更(放牧飼いだった馬を一時的に舎飼いにするなど)を要した馬の割合は、咬傷や蹴傷では18%に上ったのに対して、その他の外傷では2.8%に留まっていました。これは、咬傷や蹴傷のほうが、キズが重傷となって、より安静でより長い治癒期間を要したという可能性がありますが、その一方で、馬同士の喧嘩を避けるため、馬主が意図的に変更したというバイアスも考えられました。
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