馬の病気:腐骨
馬の運動器病 - 2013年09月02日 (月)

腐骨(Sequestrum)について。
馬の遠位肢は取り囲む筋肉郡が少ないため、外傷性に広範囲の裂傷(Extensive laceration)を生じた場合には、皮質骨(Cortical bone)の脈管損傷(Vascular damage)と細菌感染(Bacterial infection)を引き起こし易く、合併症(Complications)として腐骨形成が見られる症例が多いことが知られています。裂傷に続発する腐骨は、管骨(Cannon bone)(=第三中手骨または第三中足骨:Third metacarpal/metatarsal bone)に好発しますが、橈骨(Radius)、脛骨(Tibia)、指骨(Phalanges)などに見られる事もあります。
一般的に、皮質骨の内層部(Inner layer of cortical bone)は骨髄腔からの血液供給(Endosteal blood supply)を受けていますが、外層部(Outer layer)は骨膜からの血液供給(Periosteal blood supply)に依存しています(管骨では皮質骨の厚みの外層三分の一)。このため、骨膜の損傷時には皮質骨の無血流(Avascularity)による骨壊死(Bone necrosis)を引き起こし、この部位に細菌増殖(Propagation of bacteria)が起きることが腐骨の病因論(Etiology)として挙げられています。細菌感染をまったく伴わない骨膜損傷では、理論上は重篤な腐骨形成には至らないと考えられているため、腐骨を生じた症例においては、感染性骨炎(Infectious osteitis)という病名が用いられる場合もあります。
腐骨に羅患した症例においては、外傷の発症後一週間以内では、外傷部表層の軟部組織腫脹(Soft tissue swelling)と慢性遅延性の創傷浸出液(Chronic persistent incisional drainage)を呈し、7~14日後にかけて骨膜増生(Periosteal proliferation)が見られます。レントゲン検査(Radiography)で腐骨が確認されるには、骨膜の損傷後2~3週間を要することが多いことが報告されており、皮質骨部におけるレントゲン透過性の腐骨線(Radiolucent sequestrum line)が認められ、その周囲に骨柩(Involucrum)と呼ばれる硬化性帯域(Sclerotic margin)が観察されます。
腐骨の治療では、サイズが小さく細菌感染が軽度である病態では、自然治癒(Spontaneous healing)が期待できることが示唆されています。しかし、壊死骨(Necrotic bone:=腐骨)の内部は血液循環が著しく阻害されているため、全身投与された抗生物質(Systemically administered anti-microbials)が作用しにくく、多くの症例において感染性骨炎が慢性に経過することが知られています。このため、レントゲン上で腐骨や骨柩の形成が認められた症例では、壊死骨の外科的な清掃術(Necrotic bone debridement)が必要であることが提唱されており、全身麻酔下(Under general anesthesia)または起立位(Standing surgery)での術式が用いられています。術後には、全身性抗生物質療法(Systemic antibiotic therapy)が継続されますが、術中の腐骨検体を用いての細菌培養(Bacterial culture)と抗生物質の感受性試験(Susceptibility test)によって使用薬を決定する指針が推奨されています。
腐骨が外科的に切除および清掃された場合には、一般に予後は良好であることが報告されていますが、術中に重篤な感染性骨炎が認められた症例では、抗生物質を含有させたポリメタクリル酸メチル(Antimicrobial-impregnated polymethylmethacrylate)を創傷部に充填する治療法や、術後に遠位肢における抗生物質の静脈内・骨髄内局所灌流法(Intra-venous/medullar distal limb regional perfusion)が行われる場合もあります。
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