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気性の難しい馬を獣医はどう御するか?

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馬の獣医師の仕事では、馬に対して不快感や軽度の痛みを伴う作業をすることも多いことから、気性の難しい暴れ馬をどのように制御していくかは、業務上傷害を最小限にするためにも大切です。

ここでは、気性の難しい馬の御する手法や業務上傷害の状況などを調査した知見を紹介します。この研究では、英国の168人の馬獣医師に対して、気性の難しい馬の取り扱いや業務上傷害等に関する聞き取り調査が行なわれました。

参考文献:
Pearson G, Reardon R, Keen J, Waran N. Difficult horses - prevalence, approaches to management of and understanding of how they develop by equine veterinarians. Equine Vet Edu. 2020; 33(19): 522-530.

結果としては、気性の難しい馬を取り扱う頻度は、「毎日」が9%、「週に数回」が54%、「月に数回」が32%となっており、馬獣医師の95%は、月に数回以上は気性の難しい馬を取り扱っていることが分かりました。具体的な馬の行動としては(月一回以上は遭遇すると答えた獣医師の割合)、ヒトを押しのけようとする(95%)、ジッとしていない(92%)、注射針を嫌う(92%)、頭部に触れられるのを嫌う(85%)、バリカンを嫌う(84%)、後肢で蹴る(67%)、後ずさる(58%)、馬運車に乗らない(55%)、前肢で叩く(50%)などが含まれました。

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また、気性の難しい馬が原因となって、過去五年間で一回以上の怪我をした馬獣医師は81%に及んでおり、これらの怪我のうち、医者に診てもらう必要が出たのは26%、仕事を休む必要が出たのも16%で、不快感や機能損失等の後遺症が残ったのは37%に達していました。また、中には、五年間で30回以上の怪我をしたとの回答もありました。やはり、馬に対する医療行為には、一定の危険が伴うことを再確認させるデータだと言えます。

この研究では、気性の難しい馬を制御する方法とその効果も調査されています。その結果、鎮静剤の投与に関しては「非常に役立つ」が99%を占めたものの、鼻捻棒などの他の手法では、「役に立つ」や「役に立たない」という認識を持つ獣医師も多く(上表)、気性の難しい馬を制御する手法は、此処の獣医師によってかなり多様性があることが示唆されました。また、稀な回答として、上唇チェーン、枠場、目隠しなどが含まれました。

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また、この研究では、学習理論に関する六つのセオリー(正の強化、負の強化、正の罰、負の罰、馴化、古典的条件付け)に関して調査したところ、用語を理解していると回答した割合と、その実践方法について正答した割合には乖離が認められました。また、六つセオリーのうち五つ以上を正答した馬獣医師は約10%に過ぎなかったことも報告されています。このため、この論文の筆者は、動物行動学的な学習理論への理解を深めることで、気性の難しい馬をより安全に制御できると提唱しています。

一般的に、馬獣医師が臨床現場で実践しやすいのは、正と負の強化であると予測され、医療行為という刺激に対する馬の望ましくない反応に対して、反抗を咎めることと、許容を褒めることを、バランス良く組み合わせるのが有益だと言えます。ただ、学習理論が効果をもたらすには、長期間にわたる根気強い反復を要するのに対して、馬獣医師が此処の馬に接するのは短時間であるため、行動学的に最善の方法を常には実践できる訳ではない、という限界点もあります。最終的には、その時々の状況に応じて、馬と保定者、そして獣医師自身の安全を最大にすることを優先して、気性の難しい馬を制御していく必要があるのかもしれません。

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