馬の文献:運動誘発性肺出血(Epp et al. 2006)
文献 - 2022年12月25日 (日)
「最大下運動における運動誘発性肺出血」
Epp TS, McDonough P, Padilla DJ, Gentile JM, Edwards KL, Erickson HH, Poole DC. Exercise-induced pulmonary haemorrhage during submaximal exercise. Equine Vet J Suppl. 2006; (36): 502-507.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)の病因論(Etiology)を解明するため、五頭の健常なサラブレッドを用いて、最大下運動(Submaximal exercise)(=速歩)を疲労するまで継続し、その間の肺動脈圧(Pulmonary arterial pressure)と最小食道内圧(Esophageal minimum pressure)の測定、および、運動45分後における気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の赤血球数(Red blood cell count)の評価が行われました。
結果としては、最大下運動の後にも関わらず、気管支肺胞洗浄検査においては、運動前よりも運動後のほうが、赤血球数が八倍以上も増加しており、明瞭な運動誘発性肺出血の所見が認められました。この際、肺動脈圧は54-mmHgに留まったのに対して(通常の襲歩時には90~120-mmHg)、肺動脈の経壁圧(Pulmonary artery transmural pressures)は106-mmHgに達していました。このため、馬の運動誘発性肺出血の発症においては、脈管外因子(Extravascular factors)の関与が大きいことが示唆され、鼻拡張バンド(いわゆるネーザル・ストリップ:Nasal strip)の装着によって、脈管外陰圧の減退(Reducing negative extravascular pressures)を施すことで、運動誘発性肺出血の予防効果(Preventive effect)が期待できると結論付けられています。
一般的に、馬の運動誘発性肺出血の病因論では、肺動脈圧の増加が主因(Primary cause)であるという古典的な定説がありましたが、一方で、肺胞内&胸腔内陰圧(Alveolar/Intrapleural negative pressure)に起因する肺動脈の経壁圧の上昇が、運動誘発性肺出血の発症に深く関わっている、という提唱もなされています。つまり、血管内の陽圧によって“血液が押し出される”要素よりも、血管外からの陰圧によって“血液が引っ張り出される”要素のほうが大きい、という病因論が示されています。そして、肺動脈の経壁圧が75~100-mmHgに達した場合には、肺毛細血管のストレス性損傷(Pulmonary capillary stress failure)に至ることが報告されており(Birks et al. J Appl Physiol. 1997;82:1584, Langsetmo et al. EVJ. 2000;32:379)、今回の研究において、速歩時に計測された肺動脈経壁圧は、これを上回るものでした(106-mmHg)。
一般的に、馬の最大下運動によって生じた運動誘発性肺出血では、その重篤度(Severity)は、最大負荷運動の場合よりも低いことが知られています(Kindig et al. EVJ. 2003;35:581, McDonough et al. Eq Comp Exerc Physiol. 2004;1:177, Epp et al. Eq Comp Exerc Physiol. 2005;2:17)。この理由としては、肺動脈の経壁圧が血管損傷を引き起こすレベルまで上がって、毛細血管が破れた後の出血の重篤度は、経壁圧の上昇が継続する時間に比例する事が上げられています(Elliot et al. J Appl Physiol. 1992;73:1150)。つまり、最大下運動における脈管内圧(Intravascular pressure)は、継続的な血管外漏出(Continued extravasation)に至るほど高くなく、血管損傷の箇所が比較的に迅速に封鎖されてしまうため、最大負荷運動時ほどの深刻な出血には至らない、という考察がなされています。
一般的に、馬の最大下運動時(速歩)には、最大負荷運動時(襲歩)よりも、肺胞内&胸腔内陰圧よりも低いものの、速歩時には呼吸と歩数のアンカップリング(脱共役:Uncoupling)が起こる頻度が高く、血管損傷を引き起こすレベルの肺動脈経壁圧の閾値(Threshold)に達しやすい、という仮説がなされています(Erickson et al. EVJ Suppl. 1990;9:47, Langsetmo et al. EVJ. 2000;32:379)。つまり、一歩ごとに一回呼吸する襲歩と異なり、速歩している馬は長く深い呼吸を取ることが可能であり、この場合には、血管内陽圧と血管外陰圧の重複(Superimposition)を生じて、肺動脈の経壁圧の劇的な上昇につながると推測されています。
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結果としては、最大下運動の後にも関わらず、気管支肺胞洗浄検査においては、運動前よりも運動後のほうが、赤血球数が八倍以上も増加しており、明瞭な運動誘発性肺出血の所見が認められました。この際、肺動脈圧は54-mmHgに留まったのに対して(通常の襲歩時には90~120-mmHg)、肺動脈の経壁圧(Pulmonary artery transmural pressures)は106-mmHgに達していました。このため、馬の運動誘発性肺出血の発症においては、脈管外因子(Extravascular factors)の関与が大きいことが示唆され、鼻拡張バンド(いわゆるネーザル・ストリップ:Nasal strip)の装着によって、脈管外陰圧の減退(Reducing negative extravascular pressures)を施すことで、運動誘発性肺出血の予防効果(Preventive effect)が期待できると結論付けられています。
一般的に、馬の運動誘発性肺出血の病因論では、肺動脈圧の増加が主因(Primary cause)であるという古典的な定説がありましたが、一方で、肺胞内&胸腔内陰圧(Alveolar/Intrapleural negative pressure)に起因する肺動脈の経壁圧の上昇が、運動誘発性肺出血の発症に深く関わっている、という提唱もなされています。つまり、血管内の陽圧によって“血液が押し出される”要素よりも、血管外からの陰圧によって“血液が引っ張り出される”要素のほうが大きい、という病因論が示されています。そして、肺動脈の経壁圧が75~100-mmHgに達した場合には、肺毛細血管のストレス性損傷(Pulmonary capillary stress failure)に至ることが報告されており(Birks et al. J Appl Physiol. 1997;82:1584, Langsetmo et al. EVJ. 2000;32:379)、今回の研究において、速歩時に計測された肺動脈経壁圧は、これを上回るものでした(106-mmHg)。
一般的に、馬の最大下運動によって生じた運動誘発性肺出血では、その重篤度(Severity)は、最大負荷運動の場合よりも低いことが知られています(Kindig et al. EVJ. 2003;35:581, McDonough et al. Eq Comp Exerc Physiol. 2004;1:177, Epp et al. Eq Comp Exerc Physiol. 2005;2:17)。この理由としては、肺動脈の経壁圧が血管損傷を引き起こすレベルまで上がって、毛細血管が破れた後の出血の重篤度は、経壁圧の上昇が継続する時間に比例する事が上げられています(Elliot et al. J Appl Physiol. 1992;73:1150)。つまり、最大下運動における脈管内圧(Intravascular pressure)は、継続的な血管外漏出(Continued extravasation)に至るほど高くなく、血管損傷の箇所が比較的に迅速に封鎖されてしまうため、最大負荷運動時ほどの深刻な出血には至らない、という考察がなされています。
一般的に、馬の最大下運動時(速歩)には、最大負荷運動時(襲歩)よりも、肺胞内&胸腔内陰圧よりも低いものの、速歩時には呼吸と歩数のアンカップリング(脱共役:Uncoupling)が起こる頻度が高く、血管損傷を引き起こすレベルの肺動脈経壁圧の閾値(Threshold)に達しやすい、という仮説がなされています(Erickson et al. EVJ Suppl. 1990;9:47, Langsetmo et al. EVJ. 2000;32:379)。つまり、一歩ごとに一回呼吸する襲歩と異なり、速歩している馬は長く深い呼吸を取ることが可能であり、この場合には、血管内陽圧と血管外陰圧の重複(Superimposition)を生じて、肺動脈の経壁圧の劇的な上昇につながると推測されています。
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