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馬の後膝での関節鏡の長期的予後

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関節鏡手術は、馬の無菌手術のなかで、最も頻繁に実施されるものの一つで、OCDや小片骨折の摘出の他にも、多様な関節疾患の治療に適応されています。

ここでは、馬の後膝での関節鏡手術における長期的予後を評価した知見を紹介します。この研究では、米国のペンシルバニア大学の馬病院にて、1993~2006年にかけて、膝関節の変性関節疾患、半月板損傷、関節内軟部組織の損傷を治療するため、関節鏡手術が実施された44頭の跛行馬における、医療記録の回顧的解析と、オッズ比(OR)の算出による予後を悪化させる危険因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Cohen JM, Richardson DW, McKnight AL, Ross MW, Boston RC. Long-term outcome in 44 horses with stifle lameness after arthroscopic exploration and debridement. Vet Surg. 2009 Jun;38(4):543-51.

結果としては、長期の経過追跡ができた馬のうち、後膝の関節鏡のあとに、歩様改善したのは60%、正常歩様に戻ったのは46%、発症前の運動機能まで回復したのは37%となっていました。このため、馬の膝関節の疾患のうち、関節鏡を要するほど病態が進行した場合には、手術後にも約半数で跛行が残り、三頭中の二頭で運動機能が完治しないことが分かり、予後は中程度に留まることが示唆されました。なお、この研究の全ての症例では、術前の膝関節麻酔で跛行改善が確認されており、後膝疾患が歩様異常の主因であることが特定されていました。

この研究では、加齢と予後の悪さとの間に相関が見られ、年齢が1歳増すごとに、発症前の運動機能に回復する確率が約二割減少する(OR=7.9)ことが示されています。つまり、10歳と20歳の馬を比べると、後者のほうが運動機能を回復する確率が1/10以下に下がる(0.79の十乗は0.095)ことになります。また、術前の跛行の重篤度も予後の悪さと相関しており、跛行グレードが1増すごとに、発症前の運動機能に回復する確率が約七割も減少する(OR=0.31)ことが示されています。つまり、術前に跛行グレード1と3の馬を比べると、後者のほうが運動機能を回復する確率が1/10以下に下がる(0.31の二乗は0.096)ことになります。

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この研究では、関節軟骨の病態を、グレード0=正常軟骨、グレード1=浅部病変と軟骨虚弱化、グレード2=骨露出しない深部病変、グレード3=骨露出を伴う全層病変、というように定量化しています(上写真)。そして、グレード0~3において、正常歩様に戻った割合は、順に40%, 50%, 40%, 53%となっており、また、発症前の運動機能に回復した割合は、順に40%, 38%, 60%, 29%となっていました。このため、軟骨病変の重篤度と予後は必ずしも相関しないことが分かり、たとえ軽度な軟骨損傷であっても、正常歩様に戻れるのは半数程度に留まっていました。この要因としては、他の関節組織(半月板や十字靭帯など)の損傷が影響しているためと推測されています。

この研究では、関節軟骨の病変が悪化して骨露出した全層病変(グレード3)に対して、軟骨下骨に多数の小孔を空けて、前駆細胞の浸潤と血管新生を促すという微小破壊処置(Microfracture)が試みられた症例もいました。そして、発症前の運動機能に回復した割合は、微小破壊処置をした場合は36%で、しなかった場合は17%となっていました。ただ、この差には、統計的な有意差は無く、微小破壊処置による長期的な治療効果については疑問符が付けられています。

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この研究では、半月板損傷の病態を、グレード0=正常、グレード1=半月板に及ばない頭側靭帯裂傷、グレード2=前角と頭側靭帯の裂傷(関節鏡下で裂け目の全長が視認可能)、グレード3=半月板と頭側靭帯の重度裂傷(内外顆の底面に及んで、裂け目の全長が視認不可)、というように定量化しています(上写真)。そして、グレード0~3において、正常歩様に戻った割合は、順に53%, 55%, 57%, 0%となっており、また、発症前の運動機能に回復した割合は、順に53%, 36%, 29%, 0%となっていました。このため、半月板損傷が重篤になるほど、運動機能を完治できない確率が増すことが分かり、特に、グレード3の半月板損傷を起こすと、歩様改善や機能完治の可能性は殆ど無いことが示唆されました。

この研究での半月板損傷では、術前のエコー検査の所見と、関節鏡で視認された病変グレードが、あまり相関していないことが分かり、エコー所見による診断の感度は79%で、特異度は56%しか無いことが分かりました。このような特異度の低さ(エコー像での病変が関節鏡では見つからない場合が44%あった)については、半月板の正常範囲内の描出像に関する解釈が多様であったためと考察されていますが、逆に、半月板組織の深部にある病変は、エコーには映っても、関節鏡下では視認できなかった可能性も否定できないと思われます。また、感度の低さに関しては、半月板の内縁の病変は、エコーで描出できる範囲を超えていた可能性があると考えられています。

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この研究では、X線画像上の異常所見を、グレード0=正常、グレード1=軽度、グレード2=中程度、グレード3=重度、というように分類しています。そして、グレード0~3において、正常歩様に戻った割合は、順に50%, 61%, 16%, 50%となっており、また、発症前の運動機能に回復した割合は、順に100%, 50%, 8%, 50%となっていました。このため、術前X線での異常所見が重度になるほど、運動機能を完治できない確率が増すことが示唆されています。

以上の結果から、後膝の関節疾患のうち、関節注射などの保存療法に不応性の症例に対しては、特に、術前の跛行やX線画像での異常所見が軽度である場合には、関節鏡手術を介した病巣掻把によって、中程度の予後が期待できることが示されました。また、関節内病態のタイプによっては、術前の画像検査での診断能は限定的であることから、関節鏡で内診することによって、予後不良となる病変と(半月板の重度裂傷など)、比較的に予後が良い病変(軟骨病変や軽度の半月板損傷など)を鑑別診断すること出来て、より正確な予後判定指標となる点はメリットに挙げられています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2003 Jun;35(4):402-6 (doi: 10.2746/042516403776014163), Vet Surg. 2009 Jun;38(4):543-51 (doi: 10.1111/j.1532-950X.2009.00524.x).

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