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馬の脛骨の顆間隆起骨折での関節鏡

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関節鏡手術は、馬の無菌手術のなかで、最も頻繁に実施されるものの一つで、OCDや小片骨折の摘出の他にも、多様な関節疾患の治療に適応されています。

ここでは、馬の脛骨の顆間隆起骨折での関節鏡治療を評価した知見を紹介します。この研究では、米英の九ヶ所の馬病院において、2004~2016年にかけて、脛骨の顆間隆起骨折の治療のために関節鏡が実施された21頭の跛行馬における医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Rubio-Martínez LM, Redding WR, Bladon B, Wilderjans H, Payne RJ, Tessier C, Geffroy O, Parker R, Bell C, Collingwood FA. Fracture of the medial intercondylar eminence of the tibia in horses treated by arthroscopic fragment removal (21 horses). Equine Vet J. 2018 Jan;50(1):60-64.

結果としては、長期の経過追跡ができた症例のうち、正常歩様に回復した馬は76%(16/21頭)であり、発症前のレベルの運動または意図した用途に復帰した馬も65%(13/20頭)に達していました。しかし、残りの四頭のうち、二頭は重度跛行のため安楽殺となり、あとの二頭は、重度の関節組織損傷のため難治性跛行を呈していました。このため、馬の脛骨の顆間隆起骨折では、病巣掻把により良好な予後が期待できるものの、他の関節組織の損傷を伴っている場合には、慢性的な跛行が継続する危険性もあることが示唆されました。

この研究では、顆間隆起への到達法として、内側大腿脛骨関節の外側アプローチが最も多く(13/21頭)、次いで、大腿膝蓋関節からのアプローチ(5/21頭)、内側大腿脛骨関節の頭側アプローチ(3/21頭)となっていました。また、顆間隆起の骨折片は、一個だけの場合が最も多く(14/21頭)、二~四個(5/2頭)、五個以上(2/21頭)となっていました。骨折片の除去には、電動リセクターによる掻把術が用いられ、内側半月板脛骨靭帯への自己調整血清の注射が併用された症例もいました(2/21頭)。

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この研究では、前十字靭帯を損傷している症例が多く(15/21頭)、靭帯の断面積の1/4までの損傷が最も多く(9/21頭)、次いで、断面積の半分まで(4/21頭)、それ以上(2/21頭)となっていました。また、内側半月板の頭側靭帯を損傷している症例も半数以上あり(11/21頭)、靭帯の断面積の1/4までの損傷が8頭で、断面積の1/4~1/2の損傷が3頭となっていました。さらに、内側半月板を損傷している症例も5頭見られ、関節軟骨を損傷している症例も14頭に達していました(軽度損傷が8頭で、中程度損傷が6頭)。

解剖学的に、脛骨の顆間隆起は、二つの骨の隆起から成っており、大腿骨の内外顆に合致するような形状で、関節面の軸側部を構成しています。通常は、内側の顆間隆起のほうが外側よりも大きく、大腿骨の内顆と近接した位置にあります。古典的には、顆間隆起の骨折は、前十字靭帯に牽引されることによる剥離骨折であると考えられてきましたが、この靭帯の付着部は、内側の顆間隆起よりも頭外側であることから、現在では、脛骨が外側から押されて、内顆と顆間隆起が衝突することで骨折に至るという病因論が支持されています。

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この研究でも、重度外傷の病歴を持つ馬が多く(78%)、具体的には、衝突、人馬転、馬房での寝違え、交通事故などが含まれました。また、前十字靭帯の損傷が無い症例は29%、軽度の損傷のみが43%に及んでいました。これらは、顆間隆起の骨折が剥離骨折ではなく、外傷性の疾患であることを裏付けるデータであると考察されています。しかし、前十字靭帯と内側顆間隆起は近接しているため、強い負荷によって両方が損傷して、予後を悪化させる危険性が指摘されています。

この研究では、殆どの症例において、尾頭側方向のX線撮影で、顆間隆起の骨折片が確認されましたが、術前に骨折の確定診断が下せない症例も2頭いました。このため、後膝を屈曲させた状態での側方X線撮影を行なうことで、顆間隆起骨折を最も確実に発見できることが提唱されています。一方、重度の軟骨損傷を起こした四頭については、術前のX線ではその徴候が認められなかったことから、関節鏡による内診や、CT検査が有用であると考察されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2018 Jan;50(1):60-64 (doi: 10.1111/evj.12720).

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