fc2ブログ
RSS

馬の蹄関節での関節鏡の長期的予後

20221101_Blog_Topic160_ArthDebdmCatDIPj_Pict1.jpg

関節鏡手術は、馬の無菌手術のなかで、最も頻繁に実施されるものの一つで、OCDや小片骨折の摘出の他にも、多様な関節疾患の治療に適応されています。

ここでは、馬の蹄関節での関節鏡手術における、病態の傾向と長期的予後を評価した知見を紹介します。この研究では、米国のテキサス州の馬病院にて、2012~2017年にかけて、蹄関節の変性関節疾患の治療のために、関節鏡手術が実施された10頭の跛行馬における医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Warnock WR, Marsh CA, Hand DR. Outcome of arthroscopic debridement of cartilage injury in the equine distal interphalangeal joint. Can Vet J. 2019 Jul;60(7):731-736.

結果としては、蹄関節の軟骨病変を関節鏡で掻把した後、正常歩様に戻ったのは40%(4/10頭)でしたが、術後一年以上の騎乗使役に復帰できたのは20%のみでした。このうち、軟骨病変が蹄骨外側翼や中節骨などに及んで、関節鏡でアクセス不可であった三頭では、正常歩様に戻っていませんでした。このため、蹄関節の軟骨病変は、関節鏡での病巣掻把を実施した場合でも、予後は中程度から不良となり、正常歩様まで回復できないケースも多いことが示唆されました。

この研究では、術前の診断麻酔やMRI検査によって、跛行の主因が蹄関節の軟骨病変であるという推定診断が下されていましたが、正常歩様に戻らなかった六頭では、全頭で蹄関節以外の病変が認められ(舟状骨変性や舟嚢炎など)、半数で掌側指神経切断術を要したことから、持続的な蹄踵痛を起こす他の疾患によって、予後が悪化した症例も多かったと推測されます。また、術前の跛行期間やX線での異常所見は、予後とは相関しないことも報告されています。

20221101_Blog_Topic160_ArthDebdmCatDIPj_Pict2.jpg

この研究では、蹄骨の関節軟骨のうち、関節鏡でアクセスできるのは、中心部1/3で背側1/2の領域に限られることが示され、主要な軟骨病変は背側部に位置していたことが報告されています。過去の文献では、関節鏡での掌側アプローチ[1]および内外側アプローチ[2]などの術式も報告されていますが、いずれもアクセス可能な関節面は限定的であり、今回の研究で認められた病変の掻把術が可能であったかは不明でした(中節骨の掌側関節面はアクセス可)。

この研究では、関節鏡での掻把術で経過良好であったのは、急性で外傷性の軟骨病変であったと述べられており、慢性的な軟骨の変性や糜爛では予後が芳しくない傾向が認められました。このため、進行した変性関節疾患の徴候を術前に精査することで、関節鏡の適応を判断することが推奨されています。一方、殆どの症例で(9/10頭)、術前の蹄関節麻酔で跛行改善が確認されていたことから、この陽性反応が、必ずしも関節鏡後の治療成功の指標にはなっていませんでした。この理由としては、蹄関節から周囲組織へと麻酔薬が浸潤して、舟状骨、舟嚢、他の靭帯組織も無痛化させてしまうことが挙げられています。

20221101_Blog_Topic160_ArthDebdmCatDIPj_Pict3.jpg

Photo courtesy of Diagnostic and Surgical Arthroscopy in the Horse: C Wayne McIlwraith and Ian Wright; 4th Eds, 2014, Mosby (ISBN: ‎ 0723436932)

参考文献:
[1] Vacek JR, Welch RD, Honnas CM. Arthroscopic approach and intra-articular anatomy of the palmaroproximal or plantaroproximal aspect of distal interphalangeal joints. Vet Surg. 1992 Jul-Aug;21(4):257-60.
[2] Fowlie JG, O'Neill HD, Bladon BM, O'Meara B, Prange T, Caron JP. Comparison of conventional and alternative arthroscopic approaches to the palmar/plantar pouch of the equine distal interphalangeal joint. Equine Vet J. 2011 May;43(3):265-9.

関連記事:
・関節鏡による馬の頚椎の骨片摘出
・馬の球節の骨片は無跛行でも摘出すべきか?
・乗馬の後膝跛行での関節鏡の有用性
・馬の滑膜感染の関節鏡での予後指標
・蹄骨の裏側の骨片での関節鏡
・馬の脛骨の顆間隆起骨折での関節鏡
・馬の後膝での関節鏡の長期的予後
・馬の関節鏡での骨片サイズの影響
・馬の関節鏡での抗生物質
・馬における針関節鏡の将来性
・馬の関節鏡でも局所麻酔を
・裏にある骨片は腱鞘越しに摘出
関連記事
このエントリーのタグ: 関節炎 治療 手術

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: アラフィフ
住所: 北関東
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

質問、御意見、記事の要望等は下記まで
E-mail: rowdyponies@gmail.com

最新記事

ブログメニュー

馬の話題カテゴリー

馬の病気の話題
・蹄葉炎, 切腱術
・ナビキュラー症候群
・蹄病一般, 装蹄
・腱靭帯疾患
・背部/腰部/仙腸部疾患
・プアパフォーマンス
・消化器疾患一般
・胃潰瘍
・虚血再灌流障害
・呼吸器の医療
・神経疾患, 神経学検査
・クッシング病
・繁殖疾患と繁殖学
・皮膚病の医療
・眼科疾患, 眼科治療
・歯科疾患, 歯科治療
・寄生虫病
・高齢馬の医療
・子馬の病気や管理法
・子馬/若齢馬の長期的影響
・突然死
・症例シリーズ

馬の医療の話題
・疝痛の検査
・経鼻チューブ
・腹水検査
・疝痛の予防
・疝痛の手術判断と予後予測
・開腹術の手技や合併症
・疝痛の外科的処置
・疝痛の獣医療での地域差
・跛行検査, 画像診断
・関節鏡
・去勢, 泌尿生殖器
・抗生物質
・局所肢灌流
・COX-2限定阻害薬
・破骨細胞抑制剤
・ショックウェーブ
・パーグ治療
・馬のハンドリング, 投薬
・バイオマーカー
・麻酔
・整形外科
・キャスト, ピンキャスト
・再生医療
・先端医療
・良い死(Euthanasia)
・馬の獣医療一般

馬の一般的話題
・馬の飼養管理一般
・飼養管理での病気/怪我の予防
・馬学一般
・ウマ社会の話題
・獣医学一般, 日常
・馬の飼料
・跛行と運動
・調馬索
・サク癖
・馬の行動学や悪癖
・ハミや馬具
・輸送
・怪我や事故の予防,対処法
・ホースマンの怪我と事故
・競馬での事故死や骨折
・馬とヒト, 伝染病, 馬動物学

馬の診療シリーズ

サイト内タグ一覧

FC2カウンター

リンク

カレンダー

03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -

推薦図書

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
27位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
2位
アクセスランキングを見る>>

FC2ブログランキング

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

QRコード

QR