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馬の滑膜感染の関節鏡での予後指標

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関節鏡手術は、馬の無菌手術のなかで、最も頻繁に実施されるものの一つで、OCDや小片骨折の摘出の他にも、多様な関節疾患の治療に適応されています。ここでは、滑膜感染を起こした214頭の症例(六ヶ月齢以上)での関節鏡の治療成績、および、オッズ比(OR)の算出による予後指標に関する知見を紹介します。

参考文献:
Milner PI, Bardell DA, Warner L, Packer MJ, Senior JM, Singer ER, Archer DC. Factors associated with survival to hospital discharge following endoscopic treatment for synovial sepsis in 214 horses. Equine Vet J. 2014 Nov;46(6):701-5.

この研究では、細菌感染を起こした滑膜組織に対して、関節鏡を介した関節洗浄、病巣掻把、滑膜絨毛切除などが実施され、術後に退院を果たした場合を生存と定義しています。その結果、術前の滑液検査において、滑液の蛋白濃度(g/L)が1増えるごとに、生存率が約一割下がる(OR=0.88)ことが分かりました。つまり、滑膜の蛋白濃度が30g/L(軽度上昇)の症例に比べて、50g/L(重度上昇)の症例では、生存率が1/10以下まで下がることになります(0.88の二十乗は0.078)。これは、関節鏡が実施された時点での細菌感染の重篤度が、滑液の蛋白濃度に反映されており、早期治療することの重要性を再確認するデータであると言えます。

また、関節鏡の術後(数日後)における滑液検査を見ると、蛋白濃度が1増えるごとに、生存率が6%下がる(OR=0.94)ことも示されています。つまり、術後の滑液蛋白が正常(20g/L)に戻っていた症例に比べて、軽度上昇(30g/L)が続いていた症例では、生存率が約半分に落ちることになります(0.94の十乗は0.54)。このため、滑膜感染での関節鏡では、術後にも経時的に滑液検査を実施して、経過追跡と予後判定を行なうことが有用であると言えます(ただ、健常な滑膜組織でも、繰り返し穿刺すると、滑液の蛋白濃度が上昇することに留意する)。

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これに関連して、関節鏡での内診で、滑膜炎症が中程度から重度であった症例では、軽度であった症例に比べて、生存率が七割以上下がる(OR=0.28)ことも報告されています。やはりこれも、治療開始が遅れて、手術時点で重度の滑膜炎症を起こしていた症例ほど、予後不良となり易かったことを示唆していると言えます。関節鏡で重度な滑膜炎症を認めた症例に対しては、予後不良となる危険を考慮して、術後にもアグレッシブな追加治療(関節洗浄や局所肢灌流療法など)を施すことが推奨されています。

また、術前に外傷が確認された症例では、確認されなかった症例に比べて、生存する確率が五倍近く高くなる(OR=4.75)ことが分かりました。この理由としては、外傷が確認されないケースでは、菌血症などの全身疾患から滑膜感染を続発した症例、または、原因となる外傷が塞がるほど治療開始が遅れた症例などの、難治性の経過を示しやすい病態が含まれていたと推測され、これらを比較対象とした場合、外傷を視認できた症例のほうが、相対的に生存率が高くなったものと考察されています。

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そして、関節鏡が実施された時間帯が日中(朝9時から夕方17時)であった場合に比べて、それ以外の時間帯に施術された場合には、生存率が六割以上下がる(OR=0.36)ことも示されています。この要因としては、日中に施術すること自体が治療効果を上げた訳ではなく、夜間に救急医療として搬入されて、すぐに関節鏡が実施されたケースでは、重篤な肢端の裂傷など、滑膜組織への深刻な汚染または感染が起きていた場合が多かったためと推測されています。

さらに、この研究では、関節鏡手術を一人で執刀した場合に比べて、執刀医が二人以上の場合には、生存率が八割も減少する(OR=0.19)ことも示されています。勿論これは、執刀医を減らした方が予後が良くなるという解釈ではなく、複数の執刀医を要するような症例では、滑膜感染が重度で、関節洗浄や掻把処置に人手を要したケースや、二箇所以上の滑膜が感染していて、複数の外科医が治療に当たる必要があったケースなど、予後不良となりやすい病態が存在したためと推測されています。

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