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目隠しが馬の腰萎症状に及ぼす影響

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馬の神経症状(いわゆる腰萎)は、その有無や重篤度を主観的に評価するのが難しく、神経器疾患の早期診断を困難にする場合も多いことが知られています。

ここでは、馬に目隠しをすることで腰萎症状を鮮明にして、主観的な歩様検査の信頼性を上げるという知見を紹介します。この研究では、英国の王立獣医大学において、軽度から中程度の腰萎症状を呈している神経器疾患の罹患馬21頭を用いて、常歩時の歩様解析で腰萎症状を定量化しながら、目隠しの有無による症状の変化を解析して、ROC曲線下面積(AUC)の算出によって診断能が評価されました。

参考文献:
Olsen E, Fouch E N, Jordan H, Pfau T, Piercy RJ. Kinematic discrimination of ataxia in horses is facilitated by blindfolding. Equine Vet J. 2018 Mar;50(2):166-171.

結果としては、中程度な腰萎症状を呈した症例では(運動失調スコアが2以下)、前肢蹄の最大変位を指標とすることで、64%の感度と90%の特異度が達成されましたが(AUC=0.82)、馬に目隠しをすることで、後肢蹄の浮遊中相変位が鮮明になり、82%の感度と90%の特異度が得られることが分かりました(AUC=0.89)。一方、目隠し無しでの後肢蹄の浮遊中相変位では、73%の感度と70%の特異度に留まっていました(AUC=0.73)。

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このため、神経器疾患の罹患馬を診察するときには、目隠しをして常歩させることで、後肢蹄の不整な動きを鮮明化して、腰萎症状の診断能を向上できることが示唆されました。この理由としては、後肢の固有受容器機能障害(Proprioceptive dysfunction)を呈した症例においては、目隠しによって自分の後肢の位置を視認できなくなることで(馬は単眼視野が広く後肢の位置も見えるため)、後肢蹄を大きく円運動させる肢運びが増加(Increased circumduction)して、腰萎症状が見やすくなるためと推測されています。過去の文献[1]では、健常馬であっても、重心維持のために視覚情報が重要であることが示されています。

この研究では、軽度な腰萎症状を呈した症例の場合には(運動失調スコアが1)、後肢蹄の浮遊中相変位を指標としても、71%の感度と71%の特異度しか得られませんでしたが(AUC=0.76)、やはり、目隠しさせる事によって変位が鮮明になり、86%の感度と71%の特異度が達成されました(AUC=0.83)。この場合、偽陽性が三割ほど出てしまうものの(偽陽性率=100-特異度=0.29)、腰萎症状が疑われる馬をスクリーニングして、精密検査(頚部X線やCSF検査等)で神経器疾患を早期発見するという意味では、特異度よりも感度のほうが重要だと考えられるため、目隠しさせた歩様検査によって、腰萎を見つける感度を上げられることは臨床的に有益だと考察されています。

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ヒトの医療分野における神経学検査では、直立した被験者が閉眼することで体の揺れが大きくなることを観察するロンベルグ試験が用いられており、健常者でも、視覚情報が断たれることで、直立姿勢に不安定性が生じることが知られています[2]。今回の研究では、腰萎症状の無い馬でも、目隠しによって歩様解析の計測値にバラつきが増える(変動係数の増加)ことが示されており、そのような変動係数にも最善なカットオフ値を確立させることで、腰萎症状の鑑別に役立つ可能性が示唆されています。

この研究では、調査対象となった21頭の原因疾患としては、脊椎狭窄症が最も多かったものの(7/21頭)、狭窄部位はC2-3からC6-7まで様々であり、また、その他の症例馬の中には、確定診断が下せない馬もいたため、目隠しをさせての歩様検査が、どのような疾患タイプに対して、より高い診断能を示すのかについては解明されていませんでした。一般的に、馬のT3~L3領域での脊髄圧迫では、明瞭な前肢の歩様異常を生じないケースもあるため、目隠しが前後肢どちらの動きを不整にするかを評価することで、脳脊髄系のどの部位に病態を起こしているかの鑑別が可能になると推測されています。

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参考資料:
[1] Clayton HM, Nauwelaerts S. Effect of blindfolding on centre of pressure variables in healthy horses during quiet standing. Vet J. 2014 Mar;199(3):365-9.
[2] Findlay GF, Balain B, Trivedi JM, Jaffray DC. Does walking change the Romberg sign? Eur Spine J. 2009 Oct;18(10):1528-31.

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