馬の文献:運動誘発性肺出血(Costa et al. 2012)
文献 - 2023年01月01日 (日)
「サラブレッド競走馬における循環中のアンジオテンシン変換酵素と運動誘発性肺出血の関係」
Costa MF, Ronchi FA, Ivanow A, Carmona AK, Casarini D, Slocombe RF. Association between circulating angiotensin-converting enzyme and exercise-induced pulmonary haemorrhage in Thoroughbred racehorses. Res Vet Sci. 2012; 93(2): 993-994.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)に有用な診断法を検討するため、62頭のサラブレッド競走馬のレース後の内視鏡検査(Endoscopy)、および、循環中のアンジオテンシン変換酵素(Circulating angiotensin-converting enzyme)の測定が行われました。
結果としては、運動誘発性肺出血を発症している馬のほうが、していない馬に比べて、静脈血中のアンジオテンシン変換酵素の濃度が顕著に高い傾向が認められ、また、このアンジオテンシン変換酵素の濃度は、内視鏡下での肺出血の重篤度グレード(Grade of hemorrhage severity)と、有意な正の相関(Significant positive correlation)を示していました。このため、サラブレッド競走馬においては、血液中のアンジオテンシン変換酵素の濃度が、運動誘発性肺出血の生物指標(バイオマーカー:Biomarker)として、内視鏡検査を介さない選別検査(Screening test)に応用できる可能性が示唆されました。
一般的に、アンジオテンシン変換酵素は、肺の肥満細胞活性(Lung macrophage activation)に関与しており(Bargagli et al. Clin Chest Med. 2008;29:445)、人間の肺疾患においては、肺内皮(Pulmonary endothelium)および循環中のアンジオテンシン変換酵素濃度が上昇することが報告されています(Nowak et al. J Physiol Pharmacol. 2007;58:513, Votta-Velis et al. Anes Analg. 2007;105:1363)。また、馬の運動誘発性肺出血に併発することの多い、血管内皮炎症(Vascular endothelial inflammation)と血管新生(Neovascularisation)などは、いずれもアンジオテンシン変換酵素の機能に含まれる事が知られています(David et al. Arth Rheum. 2008;58:1156, Kohlstedt et al. Mol Pharmacol. 2006;69:1725)。これらはいずれも、馬の運動誘発性肺出血の診断に際して、アンジオテンシン変換酵素の濃度を測定することの理論的根拠(Rationale)を示すものと言えそうです。
この研究では、中程度~重度の肺出血を呈した馬の症例が充分ではなかったため、今後は、更にサンプル数を増やしてのデータ解析によって、アンジオテンシン変換酵素の濃度が、肺出血病態を定量的評価(Quantitative evaluation)する指標になりうるのか否かを検討する必要があると考察されています。また、アンジオテンシン変換酵素の濃度測定によって、運動誘発性肺出血の罹患馬と、炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)や回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)などの、他の呼吸器疾患との鑑別診断(Differential diagnosis)が可能なのかについても、更なる研究を要すると考えられました。
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この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)に有用な診断法を検討するため、62頭のサラブレッド競走馬のレース後の内視鏡検査(Endoscopy)、および、循環中のアンジオテンシン変換酵素(Circulating angiotensin-converting enzyme)の測定が行われました。
結果としては、運動誘発性肺出血を発症している馬のほうが、していない馬に比べて、静脈血中のアンジオテンシン変換酵素の濃度が顕著に高い傾向が認められ、また、このアンジオテンシン変換酵素の濃度は、内視鏡下での肺出血の重篤度グレード(Grade of hemorrhage severity)と、有意な正の相関(Significant positive correlation)を示していました。このため、サラブレッド競走馬においては、血液中のアンジオテンシン変換酵素の濃度が、運動誘発性肺出血の生物指標(バイオマーカー:Biomarker)として、内視鏡検査を介さない選別検査(Screening test)に応用できる可能性が示唆されました。
一般的に、アンジオテンシン変換酵素は、肺の肥満細胞活性(Lung macrophage activation)に関与しており(Bargagli et al. Clin Chest Med. 2008;29:445)、人間の肺疾患においては、肺内皮(Pulmonary endothelium)および循環中のアンジオテンシン変換酵素濃度が上昇することが報告されています(Nowak et al. J Physiol Pharmacol. 2007;58:513, Votta-Velis et al. Anes Analg. 2007;105:1363)。また、馬の運動誘発性肺出血に併発することの多い、血管内皮炎症(Vascular endothelial inflammation)と血管新生(Neovascularisation)などは、いずれもアンジオテンシン変換酵素の機能に含まれる事が知られています(David et al. Arth Rheum. 2008;58:1156, Kohlstedt et al. Mol Pharmacol. 2006;69:1725)。これらはいずれも、馬の運動誘発性肺出血の診断に際して、アンジオテンシン変換酵素の濃度を測定することの理論的根拠(Rationale)を示すものと言えそうです。
この研究では、中程度~重度の肺出血を呈した馬の症例が充分ではなかったため、今後は、更にサンプル数を増やしてのデータ解析によって、アンジオテンシン変換酵素の濃度が、肺出血病態を定量的評価(Quantitative evaluation)する指標になりうるのか否かを検討する必要があると考察されています。また、アンジオテンシン変換酵素の濃度測定によって、運動誘発性肺出血の罹患馬と、炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)や回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)などの、他の呼吸器疾患との鑑別診断(Differential diagnosis)が可能なのかについても、更なる研究を要すると考えられました。
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