馬のキャスト固定での合併症
話題 - 2023年01月01日 (日)

馬のキャスト固定は、外固定法の一つで、骨折の保存療法のほか、肢軸異常の矯正や重度皮膚欠損を治療する目的で、比較的頻繁に実施されますが、合併症も一定確率で起こり得ることが知られています。
ここでは、馬の四肢に用いられる半肢または全肢キャストにおける、合併症の発生状況を調査した知見を紹介します。この研究では、米国の四箇所の獣医大学病院において、1996~2007年にかけて、半肢/全肢キャストで治療された398頭の症例馬における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。
参考文献:
Janicek JC, McClure SR, Lescun TB, Witte S, Schultz L, Whittal CR, Whitfield-Cargile C. Risk factors associated with cast complications in horses: 398 cases (1997-2006). J Am Vet Med Assoc. 2013 Jan 1;242(1):93-8.
結果としては、キャスト固定された症例のうち、合併症を起こしたのは49%(198/398頭)に及んでおり、このうち、通常キャストにおける合併症の発症率(52%)のほうが、バンテージキャスト(34%)よりも高い傾向にありました。具体的な合併症のタイプとしては、キャストずれ(褥瘡)が最も多く(45%)、次いで、キャストが割れた事象(5%)となっていました(キャストずれの好発部位は、最も近位部の背側部)。そして、キャスト装着が原因となって骨折を起こした事例も三頭(0.8%)に見られ、内訳は、前肢の半肢キャスト、後肢の半肢キャスト、後肢の全肢キャストが1頭ずつでした(キャスト端が骨幹部にきた事象は無し)。

この研究では、キャスト固定による合併症を起こした症例のうち、キャストを外す前に合併症の徴候が認められたのは77%(152/198頭)に達しており、この徴候には、跛行の重篤化、キャスト近位部での軟部組織損傷の視認、キャスト表面に滲出液が染み出すなどが含まれました。また、キャスト固定による合併症が認識されたタイミングは、通常のキャストでは装着後12日目(中央値)で、バンテージキャストでは装着後8日目(中央値)となっていました。
この研究では、キャスト装着時の球節の角度を、屈曲位(上図A)、中立位(上図B)、伸展位(上図C)の三つに分類したところ、キャスト装着による合併症の発症率は、屈曲位では71%に及んでおり、中立位(48%)や伸展位(47%)よりも顕著に高くなっていました。その結果、屈曲位キャストでは、他の二つに比較して、合併症が四倍以上も起こり易い(OR=4.1)ことが報告されています。また、通常キャストにおいて、全肢キャストでの合併症の発症率(60%)は、半肢キャスト(50%)よりも少し高くなっていました。

以上の結果から、馬の四肢へのキャスト装着では、二頭に一頭という、非常に高い確率で合併症が起こることが再確認されました。また、球節を中立位または伸展位にしてキャスト装着させたり、跛行悪化や滲出液などの前兆を見逃さないことで(装着後の約二週間後)、合併症の予防や早期発見に繋がると考えられました。
Photo courtesy of J Am Vet Med Assoc. 2013 Jan 1;242(1):93-8. (doi: 10.2460/javma.242.1.93.)
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