馬のキャスト褥瘡のサーモグラフィ検査
話題 - 2023年01月02日 (月)

馬のキャスト固定は、外固定法の一つで、骨折の保存療法のほか、肢軸異常の矯正や重度皮膚欠損を治療する目的で、比較的頻繁に実施されますが、合併症も一定確率で起こり得ることが知られています。
ここでは、馬の四肢への半肢/全肢キャストによる合併症の発生状況、および、サーモグラフィ検査の有用性を調査した知見を紹介します。この研究では、ベルギーのゲント大学の大動物病院において、2005~2007年にかけて、キャスト固定が施された70頭の症例馬における医療記録の回顧的解析、および、オッズ比(OR)の算出によって危険因子が解析されました。
参考文献:
Levet T, Martens A, Devisscher L, Duchateau L, Bogaert L, Vlaminck L. Distal limb cast sores in horses: risk factors and early detection using thermography. Equine Vet J. 2009 Jan;41(1):18-23.
この研究では、キャスト装着の総日数は平均31日間で、キャスト固定による褥瘡の発症率は81%に達していました。また、褥瘡の重篤度に応じて、浅部褥瘡、深部褥瘡、全層褥瘡に分類されており、浅部褥瘡が最も多かったのは球節後面(54%)で、深部褥瘡と全層褥瘡が最も多かったのは管部近位背側面(順に21%と1%)であったことが報告されています(下図)。このため、馬のキャスト固定では、褥瘡の合併症が高い確率で起こり、その多くが管部近位に集中することが再確認されるデータが示されたと言えます。

この研究では、キャスト装着の期間が一週間長くなるごとに、褥瘡のリスクが36%増加する(OR=1.363)ことが分かりました。つまり、キャスト装着が四週間であった症例に比べ、六週間の症例では、キャスト褥瘡を起こすリスクが約二倍になる(1.363の二乗は1.86)ことになります。このため、骨折などの一次疾患が難治性で、長期間にわたるキャスト装着を要する場合には、跛行や滲出液などの褥瘡の前兆を慎重に観察することが推奨されました。
この研究では、罹患肢が腫れていない場合には、腫れている場合に比べて、褥瘡を起こすリスクが三倍以上も高くなる(OR=3.387)ことが示されました。この理由としては、腫れによる皮下浮腫が、皮膚への負荷を軽減する緩衝層になった可能性と、キャスト装着時に腫れていた肢が、その後に腫れが引くことでキャストの緩みが生じて、褥瘡を起こし易くなった、というメカニズムが予測されています。このため、キャストを装着させた肢に対しては、常に腫脹度合いは慎重に監視して、腫脹の悪化や軽減の変化を見逃さないことが重要だと考えられます。

この研究では、サーモグラフィ検査によって、キャスト越しに褥瘡の発生箇所を検知できる可能性が示唆されており(上写真)、キャスト表面温度が1℃上がるごとに、褥瘡のリスクが二倍以上になる(OR=2.10)ことが示されました。この際、表面温度の2.3℃上昇を浅部褥瘡の指標とした場合、79%の感度と80%の特異度が達成されました(AUC=0.795)。また、表面温度の4.3℃上昇を深部褥瘡の指標とした場合、90%の感度と95%の特異度が達成されました(AUC=0.915)。なお、これらの温度上昇が、触診でも認識可能なレベルの熱感なのかについては検証されていませんでした。さらに、浅部褥瘡に至る前段階の、皮膚組織の浮腫を検知できるかについても、今後の検討事項かもしれません。
この研究では、症例馬の年齢が一歳増えるごとに、褥瘡を起こすリスクが約一割増加する(OR=1.111)ことが示されました。つまり、5歳と15歳の症例を比較した場合、後者のほうが、褥瘡を起こすリスクが三倍近く高くなる(1.111の十乗は2.865)ことになります。この理由としては、若齢馬の体重の軽さや皮膚の柔軟性が、キャスト接触から皮膚を保護していた可能性が挙げられています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2009 Jan;41(1):18-23. (doi: 10.2746/042516408x343046.)
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