馬の文献:炎症性気道疾患(Moore et al. 1995)
文献 - 2023年01月03日 (火)
「炎症性気道疾患を呈したスタンダードブレッド競走馬における気管支洗浄液の細胞学的検査」
Moore BR, Krakowka S, Robertson JT, Cummins JM. Cytologic evaluation of bronchoalveolar lavage fluid obtained from standardbred racehorses with inflammatory airway disease. Am J Vet Res. 1995; 56(5): 562-567.
この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の病態解明のため、プアパフォーマンスや咳嗽(Coughing)の症状、および、内視鏡検査(Endoscopy)での炎症性気道疾患の所見を呈した32頭のスタンダードブレッド競走馬における、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の細胞学的検査(Cytologic evaluation)が行われました。
この研究では、症状および内視鏡検査に基づく、炎症性気道疾患の診断基準として、咳嗽を0~3段階、咽頭リンパ過形成(Pharyngeal lymphoid hyperplasia)を1~4段階、鼻腔咽頭浸出液(Nasopharyngeal exudate)を0~2段階、気管浸出液(Tracheal exudate)を0~3段階にグレード分けして、この合計値(最大で12)が8以上の場合を、炎症性気道疾患の発症とする取込基準(Inclusion criteria)が用いられました。
結果としては、炎症性気道疾患の罹患馬における気管支肺胞洗浄液では、軽度の好中球増加症(Neutrophilia)、リンパ球増加症(Lymphocytosis)、単球増加症(Monocytosis)が認められました。また、リンパ球の表現型解析(Phenotypic analysis)では、CD4陽性のTリンパ球およびBリンパ球の割合が低かった事が報告されています。このため、競走馬の炎症性気道疾患は、類似の呼吸器病である息労(慢性閉塞性肺疾患:Chronic obstructive pulmonary disease)(=現在の病名は回帰性気道閉塞:Recurrent airway obstruction)とは、異なった病理発生(Pathogenesis)によって発症に至ることが示唆されました。
この研究では、炎症性気道疾患の具体的な病因論については、この論文内では結論付けられていませんが、反復性または持続性の気道ウイルス感染(Recurrent/Persistent respiratory tract viral infection)が、炎症性気道疾患の実体である可能性が示唆されています。また、四頭の罹患馬においては、顕著な好酸球増加症(Eosinophilia)が見られ、同様の所見は、息労の罹患馬においても報告されています(Derksen et al. J Appl Physiol. 1985;58:598)。この所見は、全身性の好酸球増加症を伴わない事から、肺の一型過敏症(Type-1 hypersensitivity)が原因であると考えられています。
一般的に、気管支肺胞洗浄液に含まれる好中球数は、健常馬では4~9-cells/µL、息労馬では60~184-cells/µLである事が知られています(Naylor et al. Can Vet J. 1992;33:591, Mair. EVJ. 1987;19:463)。一方、今回の研究における、炎症性気道疾患の罹患馬の気管支肺胞洗浄では、好中球数は平均25-cells/µLであり、息労の罹患馬よりは顕著に低い傾向にありました。このため、肺組織における三型過敏症(Type-3 hypersensitivity of pulmonary tissue)が原因であると考えられる息労と異なり(Derksen. Eq Resp Disorders. 1990:223)、炎症性気道疾患では混合性炎症(Mixed inflammation)の病態を呈していたと結論付けられています。
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この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の病態解明のため、プアパフォーマンスや咳嗽(Coughing)の症状、および、内視鏡検査(Endoscopy)での炎症性気道疾患の所見を呈した32頭のスタンダードブレッド競走馬における、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の細胞学的検査(Cytologic evaluation)が行われました。
この研究では、症状および内視鏡検査に基づく、炎症性気道疾患の診断基準として、咳嗽を0~3段階、咽頭リンパ過形成(Pharyngeal lymphoid hyperplasia)を1~4段階、鼻腔咽頭浸出液(Nasopharyngeal exudate)を0~2段階、気管浸出液(Tracheal exudate)を0~3段階にグレード分けして、この合計値(最大で12)が8以上の場合を、炎症性気道疾患の発症とする取込基準(Inclusion criteria)が用いられました。
結果としては、炎症性気道疾患の罹患馬における気管支肺胞洗浄液では、軽度の好中球増加症(Neutrophilia)、リンパ球増加症(Lymphocytosis)、単球増加症(Monocytosis)が認められました。また、リンパ球の表現型解析(Phenotypic analysis)では、CD4陽性のTリンパ球およびBリンパ球の割合が低かった事が報告されています。このため、競走馬の炎症性気道疾患は、類似の呼吸器病である息労(慢性閉塞性肺疾患:Chronic obstructive pulmonary disease)(=現在の病名は回帰性気道閉塞:Recurrent airway obstruction)とは、異なった病理発生(Pathogenesis)によって発症に至ることが示唆されました。
この研究では、炎症性気道疾患の具体的な病因論については、この論文内では結論付けられていませんが、反復性または持続性の気道ウイルス感染(Recurrent/Persistent respiratory tract viral infection)が、炎症性気道疾患の実体である可能性が示唆されています。また、四頭の罹患馬においては、顕著な好酸球増加症(Eosinophilia)が見られ、同様の所見は、息労の罹患馬においても報告されています(Derksen et al. J Appl Physiol. 1985;58:598)。この所見は、全身性の好酸球増加症を伴わない事から、肺の一型過敏症(Type-1 hypersensitivity)が原因であると考えられています。
一般的に、気管支肺胞洗浄液に含まれる好中球数は、健常馬では4~9-cells/µL、息労馬では60~184-cells/µLである事が知られています(Naylor et al. Can Vet J. 1992;33:591, Mair. EVJ. 1987;19:463)。一方、今回の研究における、炎症性気道疾患の罹患馬の気管支肺胞洗浄では、好中球数は平均25-cells/µLであり、息労の罹患馬よりは顕著に低い傾向にありました。このため、肺組織における三型過敏症(Type-3 hypersensitivity of pulmonary tissue)が原因であると考えられる息労と異なり(Derksen. Eq Resp Disorders. 1990:223)、炎症性気道疾患では混合性炎症(Mixed inflammation)の病態を呈していたと結論付けられています。
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