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疝痛の手術後での乗馬競技への復帰率

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馬の疝痛治療での開腹術は、侵襲性や合併症の危険も大きく、施術を判断する際には、術後にパフォーマンスを維持できるか否かも、重要な判断要因であると言えます。

ここでは、疝痛の手術と、その後の乗馬競技への復帰率を調査した知見を紹介します。この研究では、デンマークのコペンハーゲン大学の大動物病院において、2005~2010年にかけて、疝痛の治療のために開腹術が実施された88頭の症例馬における、医療記録の回顧的解析、長期経過の聞き取り調査、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の評価が行なわれました。

参考文献:
Christophersen MT, Tnibar A, Pihl TH, Andersen PH, Ekstrøm CT. Sporting activity following colic surgery in horses: a retrospective study. Equine Vet J Suppl. 2011 Nov;(40):3-6.

この研究では、開腹術後に六ヶ月以上生存した症例においては、競技復帰を果たした割合は86%に達しており、手術前と同等以上のパフォーマンスを発揮した馬は84%に上っていました。また、開腹術の時点で、まだ競技参加していなかった馬のうち、術後に競技デビューを果たしたのは89%に及んでいました。そして、開腹術から騎乗再開までの期間は、5~6ヶ月が殆どで(獣医師の指示に基づく)、それ以上の期間を要した馬は5%に留まっていました。

また、この研究では、術創の合併症と競技復帰率には負の相関が認められ、術創治癒が良好であった症例に比較して、術創の合併症を起こした症例では、競技復帰できないリスクが十倍以上も高くなる(OR=14.5)ことが示されました。なお、今回の調査対象の症例馬では、乗馬の競技馬が82%を占めており、練習馬が15%となっていました(競走馬は2%のみ)。そして、聞き取り調査を行なった馬主のうち、今後も疝痛馬への開腹術を選択すると回答した割合は90%でした。

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以上の結果から、乗馬の競技馬における疝痛オペでは、術後に六ヶ月以上の生存を果たした場合には、八割以上の確率で、競技復帰およびパフォーマンスの維持/向上を期待できることが示唆されました。一方で、予後不良の危険因子として最も大きいのは術創感染であり、整復した消化管の治癒よりも予後に与える影響が大きいことが示されました。なお、馬主が今後も開腹術を選択すると回答した要因としては、生存率よりも競技復帰率のほうが、七倍以上も影響が大きかった(OR=7.42)という結果も示されています。

過去の文献を見ると、疝痛の手術後における乗馬競技への復帰について報告したものは少なく、小腸疾患の開腹後に95%の馬が競技復帰したという知見や[1]、開腹術後に競技復帰した馬は85%に上ったという知見があります[2]。その一方で、長期的な経過を見ると、疝痛の開腹術後に90%が競技復帰したものの、パフォーマンス維持した割合は、半年後では70%で、一年後では30%まで下がったという知見もあります[3]。

この研究では、開腹術後の五年半にわたる経過追跡が行なわれましたが、時間経過と共に生存率は下がる傾向が認められ、具体的には、半年後(95%)→一年後(87%)→二年後(81%)→三年後(77%)→四年後(62%)→五年後(58%)と推移していました。長期経過における統計学的な生存曲線(上図)を見ると、生存率の低下は術後の一年間が主となっていることが読み取れ、その後は比較的にプラトーとなり、三年以降は追跡不可な個体が増えることが要因であるという徴候(サンプル数低下による信頼区間幅の広がり)が認められました。なお、開腹術後の生存率に関する過去の文献を見ると、11ヶ月後の生存率が91%という報告や[4]、一年後の生存率が84%という報告があり[5]、今回の治療成績とも合致していたと考察されています。

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この研究では、開腹術で確認された疾患の発症部位としては、大腸が70%、小腸が30%となっていました。また、腸切開術(±吻合術)が行なわれた割合は46%であり、このうち八割は大腸で、残りの二割が小腸でした。一方、腸切開を要しなかった疾患部位としては、68%が大腸で、30%が小腸となっていました(他の2%は不明)。しかし、腸切開が実施されたか否かの違いは、長期的な予後には有意な影響を及ぼさなかったことが分かりました。

この研究では、調査対象となった馬の品種として、ウォームブラッドが48%と最も多く、次いで、混血種(15%)、アイスランド種(14%)、ポニー(9%)となっていました(サラブレッドは4%のみ)。また、騙馬・牝馬・牡馬の割合は、順に53%, 33%, 14%でした。なお、開腹術の時点での平均年齢は7歳となっていました。なお、症例馬の品種・性別・年齢は、長期的な予後には影響が無かったと述べられています。

Photo courtesy of Equine Vet J Suppl. 2011 Nov;(40):3-6. (doi: 10.1111/j.2042-3306.2011.00490.x.)

参考文献:
[1] Muller JMV, Wehrli-Eser M, Waldmeier P, Rohn K, Feige, K. Short-and long-term survival of surgical colic patients. Small intestinal resection does not influence the prognosis of horses with small intestinal colic following their first laparotomy. Tierarztliche Praxis Grosstiere. 2009;37,247-254.
[2] Wilson DA, Baker GJ, Boero MJ. Complications of celiotomy incisions in horses. Vet Surg. 1995 Nov-Dec;24(6):506-14.
[3] Launois T, Heiles P, Desbrosse F, Perrin R, Rossignol F, Scicluna C. Sports activity after colic surgery: post-operative outcome of 100 procedures. In: Proc AAEP. Marrakech, Morocco. 2006;279-281.
[4] Mezerova J, Zert Z. Long-term survival and complications of colic surgery in horses: analysis of 331 cases. Vet. Med. (Praha). 2008;53,43-52.
[5] Mair TS, Smith LJ. Survival and complication rates in 300 horses undergoing surgical treatment of colic. Part 3: Long-term complications and survival. Equine Vet J. 2005 Jul;37(4):310-4.

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