児童における馬に関わる怪我(豪州)
話題 - 2023年01月06日 (金)

大変残念なことに、オーストラリアでは、児童におけるスポーツ関連死のうち、実に1/4が乗馬関連の怪我であると言われており、その予防対策が重要になっています。ここでは、オーストラリアでの児童医療施設の医療記録から、馬に関連した怪我を抽出して、その発生状況や発生原因、予防に関係する要因を調査した知見を紹介します。
参考文献:
Wolyncewicz GEL, Palmer CS, Jowett HE, Hutson JM, King SK, Teague WJ. Horse-related injuries in children - unmounted injuries are more severe: A retrospective review. Injury. 2018 May;49(5):933-938.
結果としては、馬に関連する怪我によって診察を受けた505名の児童(16歳未満)のうち、馬に乗っているときに起こった怪我が、全体の77%に及んでおり、そのうち、最も多いのは頭部の怪我であることが示されました。また、児童が騎乗時に、競技参加したり、指導員からレッスンを受けている場合よりも、各個で騎乗している場合のほうが、怪我をする割合が多い(54%)ことも分かりました。
一方で、馬に乗っているときの怪我に比べて、馬を曳いているときに起こった怪我のほうが、外傷重篤度スコアが有意に高かったことが分かり、怪我が重症となるリスクが二倍以上も高い(オッズ比=2.6)ことが示されました。また、怪我による入院期間を見ても、馬に乗っているときの怪我(平均1.1日)に比較して、馬を曳いているときの怪我(平均2.0日)では有意に長かったことも報告されています。さらに、馬を曳いているときに怪我をした児童は、年齢が若くて、男の子である確率が高いことも分かりました。

また、この研究では、児童が馬に乗っているときには、上腕部や脊椎の怪我を起こし易かったのに対して、馬を曳いているときには、ヘルメットを装着している割合が有意に低く、顔やお腹の怪我を起こし易かったことも分かりました。さらに、馬に乗っている場合に比べ、馬を曳いているときの怪我では、頭部に重度外傷を負うリスクが八倍も高いことや、集中治療室への入院を要するリスクが二倍も高かったことが報告されています。
以上の結果から、児童が馬の傍で活動する際には、馬に騎乗しない状況であっても、必ずヘルメットを装着して、頭部への外傷を未然に防ぐことが重要である、という考察が成されています。また、馬に関連する怪我の発生率そのものは、馬に乗っている場合の方が三倍以上も高かったことから、ヘルメットやベスト等の防護具の装着を徹底すると共に、児童が一人で自由に騎乗することは可能な限り避けて、深刻な馬関連の怪我を予防することが重要であると提唱されています。

一方、過去の文献[1]では、成人での馬に関連した怪我において、馬に乗っているときに起こる怪我(落馬など)と、馬を曳いているときに起こる怪我(後肢で蹴られるなど)では、重篤度スコアに有意差が無かったことが報告されています。このような、成人と児童の違いが生じる理由としては、同じ高さから落馬したときの地面との衝突力は、体重の軽い児童ほど小さくなるのに対して、同じ強さで馬に蹴られた場合には、児童は体格が小さく体重も軽いため、蹴られた際の衝撃が相対的に大きくなるためと考察されています。
さらに、他の文献[2]においても、児童の外傷における重篤度スコアでは、馬に関連した怪我が、交通事故に次いで、二番目にスコアの高い怪我であることが報告されています。また、同研究では、馬関連の怪我のうち、落馬によるものが発生数では上回るものの、馬に蹴られる場合のほうが、怪我が重症になり易いことが示されています。さらに、児童の怪我では、落馬後に足がアブミに引っ掛かって、馬に引きずられる事象も多いため(児童は体重が軽く、アブミ革が切れないため)、安全アブミを使用することも推奨されています。
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参考文献:
[1] Carmichael SP 2nd, Davenport DL, Kearney PA, Bernard AC. On and off the horse: mechanisms and patterns of injury in mounted and unmounted equestrians. Injury. 2014 Sep;45(9):1479-83.
[2] Jagodzinski T, DeMuri GP. Horse-related injuries in children: a review. WMJ. 2005 Feb;104(2):50-4.