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馬に関連した頭部骨折の傾向(ドイツ)

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ホースマンが馬に蹴られる事故が起きた際に、頭部への外傷は重症化する危険性が高いことから、特に予防対策が重要であると言えます。一般的に、馬に関連した怪我のうち、頭部骨折は19~54%を占めることが報告されています[1,2]。

ここでは、馬に関連した怪我の中でも、頭部骨折の病態や発生状況、予後に関わる因子などを評価した知見を紹介します。この研究では、ドイツのハノーバー医科大学において、2000~2015年にかけて、馬に関連した頭部骨折の治療が行なわれた71名の患者において、医療記録の抽出および解析が行なわれました。

参考文献:
Stier R, Tavassol F, Dupke C, Ruter M, Jehn P, Gellrich NC, Spalthoff S. Retrospective analysis of 15 years of horse-related maxillofacial fracture data at a major German trauma center. Eur J Trauma Emerg Surg. 2022 Aug;48(4):2539-2546.

結果としては、馬に関連した頭部骨折のうち、蹴られて起こったものが72%で、落馬して起こったものは28%となっており、また、骨だけでなく脳組織の損傷を伴った患者は39%に達していました。このうち、蹴られて起こった頭部骨折では、顔面中央の骨折が2/3で、残りの1/3は下顎骨折でした。一方、落馬して起こった頭部骨折では、その九割が顔面中央の骨折となっていました。なお、過去の文献でも、馬に関連した頭部骨折のうち、蹴られて発症する場合が69~71%を占めるという報告があります[3,4]。

この研究では、ヘルメットとベストの着用率を見たところ、乗馬の初心者では67%、中級者では44%、上級者では33%となっており、また、頭部骨折の患者の70%は乗馬の上級者であったことが分かりました。そして、骨折の整復手術後に合併症を続発した割合を見ると、ヘルメットを装着していた患者では29%に留まったのに対して、ヘルメット無しだった患者では、その81%で術後合併症が認められました。この際の合併症には、創部感染、神経損傷、失明などが含まれました。

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また、この研究では、患者の年齢が上がるほど、入院期間が長くなる傾向が認められ、60歳以上の患者の多くが、10日間以上の入院を要していました。また、事故時にヘルメット無しだった患者に比べて、ヘルメットを装着していた患者では、入院期間が約3/4になることが分かりました(上図の赤点と赤線)。

以上の結果から、馬に関連した怪我としての頭部骨折では、馬に乗っているときよりも、馬を曳いているときに蹴られて起こることが、約2.5倍も多いことが判明しました。このため、気性の荒い馬を取り扱う場合などには、たとえ騎乗していない時でも、ヘルメットを装着することの重要性が再確認されました(特に高齢者では)。その一方で、下顎骨折など、ヘルメットやベストでも防げないタイプの怪我もあるため、一般的な馬の安全な取り扱い方法を徹底することも重要であると提唱されています。

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この研究では、馬に蹴られて起こった頭部骨折のうち、後肢がハダシだった馬は62%に及び、後肢に蹄鉄が着いていた馬は14%となっていました(残りの24%は不明)。このため、後肢の蹄鉄を外してある馬であっても、100%安全という訳ではなく、頭部を蹴られれば骨折に至ってしまうという警鐘が鳴らされています。

この研究では、頭部骨折の患者の七割以上が、乗馬の上級者であったことが報告されています。この要因としては、上級者ほど気性の難しい馬をハンドリングする機会が多かったことや、馬の取り扱いに慣れることで、防護具の装着を省略する割合が多かったこと、などが挙げられています。過去の文献では、ホースマンがヘルメットを装着しない理由として、「不要だから」および「不快だから」という回答が多かったと報告されています[5]。

Photo courtesy of Eur J Trauma Emerg Surg. 2022 Aug;48(4):2539-2546. (doi: 10.1007/s00068-020-01450-w.)

関連記事:
・児童における馬に関わる怪我(豪州)
・ホースマンの怪我の発生状況(米国)
・野外障害における落馬リスクの解析
・競馬施設での人身事故
・ヘルメットをかぶろう

参考文献:
[1] Ueeck BA, Dierks EJ, Homer LD, Potter B. Patterns of maxillofacial injuries related to interaction with horses. J Oral Maxillofac Surg. 2004 Jun;62(6):693-6.
[2] Sorli JM. Equestrian injuries: a five year review of hospital admissions in British Columbia, Canada. Inj Prev. 2000 Mar;6(1):59-61. doi: 10.1136/ip.6.1.59.
[3] Meredith L, Antoun JS. Horse-related facial injuries: the perceptions and experiences of riding schools. Inj Prev. 2011 Feb;17(1):55-7.
[4] Islam S, Gupta B, Taylor CJ, Chow J, Hoffman GR. Equine-associated maxillofacial injuries: retrospective 5-year analysis. Br J Oral Maxillofac Surg. 2014 Feb;52(2):124-7.
[5] Eckert V, Lockemann U, Püschel K, Meenen NM, Hessler C. Equestrian injuries caused by horse kicks: first results of a prospective multicenter study. Clin J Sport Med. 2011 Jul;21(4):353-5.
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