馬の文献:炎症性気道疾患(Wood et al. 2005)
文献 - 2023年01月07日 (土)
「英国の若齢競走馬における炎症性気道疾患、鼻汁排出、および、呼吸器感染」
Wood JL, Newton JR, Chanter N, Mumford JA. Inflammatory airway disease, nasal discharge and respiratory infections in young British racehorses. Equine Vet J. 2005; 37(3): 236-242.
この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の病態解明のため、1993~1996年にかけて、無作為抽出(Random selection)された148頭の二~四歳の英国競走馬における、炎症性気道疾患、鼻汁排出(Nasal discharge)、および、呼吸器感染(Respiratory infection)の調査が行われました。
結果としては、全体としての炎症性気道疾患の有病率(Overall prevalence)は13.9%、一ヶ月における発症率(Incidence)は百頭当たり約九症例(8.9-cases/100-horses/month)で、病気の平均経過期間(Mean duration of disease)は八週間であった事が示されました。一方、全体としての鼻汁排出の有病率は4.1%、一ヶ月における発症率は百頭当たり約三症例(2.7-cases/100-horses/month)であった事が示されました。このため、若齢の競走馬においては、鼻汁排出よりも炎症性気道疾患のほうが、顕著に高い有病率および発症率を示し、検疫管理の上で非常に重要な疾患である、という他の文献の所見(Burrell et al. Vet Rec. 1996;139:308)を裏付けるデータが示されたと考察されています。
この研究では、年齢の高い馬ほど炎症性気道疾患の有病率が低い傾向が認められ、一年間にわたる累積有病率(Cumulative annual prevalence)は、二歳馬では78%、三歳馬では50%、四歳馬では20%でした。また、炎症性気道疾患の経過期間は、年齢の高い馬ほど短い傾向にありました。これは、加齢に伴って呼吸器感染への免疫や耐性(Immunity or resistance)が向上した事に起因すると推測されており、つまり、競走馬における炎症性気道疾患の病因(Etiology)に、細菌およびウイルス感染(Bacterial/Viral infection)が関与している事を再確認させるデータである、という考察がなされています。一方、類似疾患である回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(=アレルギー反応に起因する場合が多い)では、加齢に伴って有病率が高い傾向にある事が知られています(Dixon et al. EVJ. 1995;27:422, Couetil and Ward. JAVMA. 2003;223:1645)。
この研究では、調査対象となった七箇所の調教施設(Training yards)において、施設ごとの炎症性気道疾患の有病率および発症率には、かなり大きなバラつきが見られ、最大と最小では五倍以上の違いがありました。一方、炎症性気道疾患の経過期間には、調教施設のあいだで有意差はありませんでしたが(最大と最小の違いは1.7倍)、有病率および発症率の高い施設では、炎症性気道疾患の経過期間も長い傾向にありました。このように、炎症性気道疾患が発症しやすい施設、または、炎症性気道疾患が重篤になりやすい施設があった要因については、今回の論文内では明瞭には結論付けられていませんが、入厩馬の管理法や、粉塵量、特定の病原菌やウイルスによる土壌汚染の度合いなどが、調教施設ごとの炎症性気道疾患の発生状況に影響を与えていた可能性は否定できないと考えられました。
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この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の病態解明のため、1993~1996年にかけて、無作為抽出(Random selection)された148頭の二~四歳の英国競走馬における、炎症性気道疾患、鼻汁排出(Nasal discharge)、および、呼吸器感染(Respiratory infection)の調査が行われました。
結果としては、全体としての炎症性気道疾患の有病率(Overall prevalence)は13.9%、一ヶ月における発症率(Incidence)は百頭当たり約九症例(8.9-cases/100-horses/month)で、病気の平均経過期間(Mean duration of disease)は八週間であった事が示されました。一方、全体としての鼻汁排出の有病率は4.1%、一ヶ月における発症率は百頭当たり約三症例(2.7-cases/100-horses/month)であった事が示されました。このため、若齢の競走馬においては、鼻汁排出よりも炎症性気道疾患のほうが、顕著に高い有病率および発症率を示し、検疫管理の上で非常に重要な疾患である、という他の文献の所見(Burrell et al. Vet Rec. 1996;139:308)を裏付けるデータが示されたと考察されています。
この研究では、年齢の高い馬ほど炎症性気道疾患の有病率が低い傾向が認められ、一年間にわたる累積有病率(Cumulative annual prevalence)は、二歳馬では78%、三歳馬では50%、四歳馬では20%でした。また、炎症性気道疾患の経過期間は、年齢の高い馬ほど短い傾向にありました。これは、加齢に伴って呼吸器感染への免疫や耐性(Immunity or resistance)が向上した事に起因すると推測されており、つまり、競走馬における炎症性気道疾患の病因(Etiology)に、細菌およびウイルス感染(Bacterial/Viral infection)が関与している事を再確認させるデータである、という考察がなされています。一方、類似疾患である回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(=アレルギー反応に起因する場合が多い)では、加齢に伴って有病率が高い傾向にある事が知られています(Dixon et al. EVJ. 1995;27:422, Couetil and Ward. JAVMA. 2003;223:1645)。
この研究では、調査対象となった七箇所の調教施設(Training yards)において、施設ごとの炎症性気道疾患の有病率および発症率には、かなり大きなバラつきが見られ、最大と最小では五倍以上の違いがありました。一方、炎症性気道疾患の経過期間には、調教施設のあいだで有意差はありませんでしたが(最大と最小の違いは1.7倍)、有病率および発症率の高い施設では、炎症性気道疾患の経過期間も長い傾向にありました。このように、炎症性気道疾患が発症しやすい施設、または、炎症性気道疾患が重篤になりやすい施設があった要因については、今回の論文内では明瞭には結論付けられていませんが、入厩馬の管理法や、粉塵量、特定の病原菌やウイルスによる土壌汚染の度合いなどが、調教施設ごとの炎症性気道疾患の発生状況に影響を与えていた可能性は否定できないと考えられました。
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