馬の病気:肘腫
馬の運動器病 - 2013年09月03日 (火)

肘腫(Capped elbow)について。
尺骨上端に形成された後天性皮下滑液嚢(Acquired subcutaneous bursa)が、感染性または非感染性(Infectious/Non-infectious)に炎症を起こす疾患で、肘頭滑液嚢炎(Olecranon bursitis)とも呼ばれます。肘頭には本来、滑液嚢は存在しませんが、馬が馬房で胸骨位(Sternal recumbency)で横たわる際に、尺骨上端部が蹄踵または蹄鉄尾で持続的に摩擦される事で、偽滑液嚢(False bursa)が形成され、そこに穿孔性外傷(Penetrating wound)から細菌感染(Bacterial infection)を引き起こす場合もあります。顕著な腫脹を呈した場合には、肘頭滑液嚢の内面に滑膜組織(Synovial membrane tissue)が形成され、正常な滑液嚢に類似した滑液生成(Synovial fluid production)が起きる事が知られています。
肘腫の診断は、通常は視診と触診で下され、尺骨上端部に突出した可動性腫脹(Prominent movable swelling)が触知されます。非感染性の肘頭滑液嚢炎では、跛行(Lameness)や圧痛(Pain on palpation)は見られず、外観の悪化(Cosmetic blemish)が問題となるのみですが、感染性の肘頭滑液嚢炎では、患部の熱感と圧痛を呈し、軽度~中程度の跛行(Mild to moderate lameness)を引き起こします。この場合には、肘頭部の超音波検査(Ultrasonography)、滑液嚢の造影レントゲン検査(Contrast radiography)、肘関節(Elbow joint)の滑液検査(Arthrocentesis)によって、尺骨(Ulna)の損傷や感染性肘関節炎(Septic elbow joint arthritis)などの併発を確かめることが重要です。
非感染性の肘頭滑液嚢炎の治療では、繋部にリング状のブーツを着用させ、更なる外傷から肘頭を保護することで腫れが引く場合もあり、また、滑液吸引(Synovial fluid aspiration)を施した後に、コルチコステロイド、オルゴテイン(Orgotein)、ジスプロシウム(Dysprosium)等の注入が併用される場合もあります。また、滑液嚢内にイオジン溶液を注入する治療法も報告されていますが、効能に関する科学的裏付けを欠くため、実施には賛否両論(Controversy)があります。
慢性病態を示した非感染性の肘頭滑液嚢炎や、感染性の肘頭滑液嚢炎においては、肘頭滑液嚢の外科的切除(Surgical resection)が必要で、滑液嚢を開かず皮下組織から分離させるように周囲を切開して、滑液嚢全体をひとまとめに切除する手法(En bloc surgical resection)が推奨されています。この際には、肘頭の尾側面を切開しないこと(術後に縫合部に掛かる緊張が大きくなるため)、水平および垂直マットレス縫合(Vertical/Horizontal mattress suture)などの強度の高い方法で術創を閉鎖すること、術後は患馬を馬房に曳き手でつないで(Head-tied confinement)、2~3週間は寝起きをさせないこと、などを実施することが重要です。
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