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馬の喉頭片麻痺に対する披裂角切除術

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一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する外科的治療では、喉頭形成術(タイバック手術)に声嚢声帯切除術を併用する術式が選択肢の一つとされていますが、長期経過を評価した研究では、八割近い症例において、披裂軟骨炎や軟部組織虚脱などの異常所見が認められています[1,2]。このため、喉頭形成術が失敗した場合には、披裂軟骨を部分切除または亜全切除する術式が提唱されており、インプラントを使わないメリットと(感染リスクが低い)、気道不安定性を生むデメリットが指摘されています[3,4]。

一方、近年の知見では、披裂軟骨の硝子軟骨部と軟性軟骨部のうち、前者が気道を安定化させ、後者が虚脱を引き起こすことから[5]、後者のみを切除する披裂角切除術(Arytenoid corniculectomy)という術式が考案されており、気道を不安定化させることなく、披裂軟骨虚脱を予防する効果が期待できるという仮説が成されています[1]。この仮説を検証するため、下記の研究では、馬の屠体から採取した喉頭軟骨(28個)を用いて、喉頭片麻痺の病態を再現して、体外実験装置にて通気負荷を掛けて(気管内径が狭い場合と広い場合)、その状態で、喉頭形成術、披裂角切除術、披裂軟骨部分切除術を実施することによる、喉頭抵抗や声門断面積の変化が測定されました。

参考文献:
Tucker ML, Sumner D, Reinink SK, Wilson DG, Carmalt JL. Ex vivo evaluation of arytenoid corniculectomy, compared with three other airway interventions, performed on cadaveric equine larynges with simulated recurrent laryngeal neuropathy. Am J Vet Res. 2019 Dec;80(12):1136-1143.

結果としては、喉頭抵抗(気管内径が狭いモデル)の平均値は、無処置では0.170kPas/Lでしたが、喉頭形成術によって0.094kPas/Lまで、喉頭形成術+披裂角切除術によって0.094kPas/Lまで、それぞれ有意に減少しており、これら二種類の術式が、喉頭抵抗を緩和させるのに有用であることが示唆されました。一方、披裂角切除術のみを実施した場合は0.151kPas/L、披裂軟骨部分切除術のみを実施した場合は0.139kPas/Lと、いずれも無処置から有意差は無いことが分かり、これら二種類の術式では、喉頭抵抗は緩和されませんでした。なお、声門断面積の相対的虚脱度合いを計測すると、喉頭形成術では71%、喉頭形成術+披裂角切除術では67%、披裂軟骨部分切除では51%、披裂角切除術では35%となっており、やはり前者2つの術式が、披裂軟骨虚脱を予防するのに有用であることが示されました。

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以上の結果に基づくと、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術のみを実施すれば十分であり、披裂角切除術を併用したり、喉頭形成術をせずに、披裂角切除術/披裂軟骨部分切除術だけを実施しても効果が無いと考えられました。しかし、過去の文献では、実馬を用いた実験において、喉頭片麻痺の馬に対して、披裂軟骨部分切除術をすることで、喉頭抵抗を健常な気道と同等なレベルまで緩和できることが示されており[6]、今回の屠体実験モデルでは、実馬の気道環境を完全には再現できていない可能性が示唆されています。

なお、過去の文献では、披裂軟骨の亜全切除術も試みられていますが、喉頭片麻痺で生じた喉頭の陰圧を、十分に緩和できないことが示されており[7]、その理由としては、最大通気量の状態では、披裂軟骨の小角突起が気道内に虚脱してきてしまうことが挙げられています。このため、この術式の有用性に疑問符が投げ掛けられている一方で、実馬における披裂軟骨の部分切除術では、術後に披裂喉頭蓋ヒダを追加で切除することで、気道閉塞を減退できることが示されています[8]。このため、通気を妨げている披裂軟骨の部位を切除することは有益であると予測され、披裂角切除術の有用性については、今後の体外/実馬実験で再検証する価値があると考察されています。

この研究では、統計解析での偏差の三割近くを、屠体の喉頭サンプル間の偏差が占めていることが分かり、此処の馬によって、喉頭軟骨のサイズ、形状、柔軟性の個体差が大きいことで、幾つかの術式による治療効果が発揮されていない可能性が懸念されています。しかし、このような個体差は、実馬を使った実験をしたとしても避けられないと推測されており、過去の文献では、臨床症例での喉頭形成術が失敗する要因として、披裂軟骨の柔軟性欠如により必要量の外転が得られなかったり、逆に、柔軟性があり過ぎることで、小角突起がしなって気道内に虚脱してくる事象が観察されています[1,9]。

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Photo courtesy of Am J Vet Res. 2019 Dec;80(12):1136-1143. (doi: 10.2460/ajvr.80.12.1136.)

参考文献:
[1] Barnett TP, O'Leary JM, Parkin TD, Dixon PM, Barakzai SZ. Long-term exercising video-endoscopic examination of the upper airway following laryngoplasty surgery: a prospective cross-sectional study of 41 horses. Equine Vet J. 2013 Sep;45(5):593-7.
[2] Barnett TP, O'Leary JM, Parkin TD, Dixon PM, Barakzai SZ. Long-term maintenance of arytenoid cartilage abduction and stability during exercise after laryngoplasty in 33 horses. Vet Surg. 2013 Apr;42(3):291-5.
[3] Tulleners EP, Harrison IW, Mann P, Raker CW. Partial arytenoidectomy in the horse with and without mucosal closure. Vet Surg. 1988 Sep-Oct;17(5):252-7.
[4] Hay WP, Tulleners EP, Ducharme NG. Partial arytenoidectomy in the horse using an extralaryngeal approach. Vet Surg. 1993 Jan-Feb;22(1):50-6.
[5] Fulton IC, Anderson BA, Stick JA, et al. Larynx. In: Auer JA, Stick JA, eds. Equine surgery. 4th ed. St Louis: Elsevier Saunders, 2012;592–623.
[6] Radcliffe CH, Woodie JB, Hackett RP, Ainsworth DM, Erb HN, Mitchell LM, Soderholm LV, Ducharme NG. A comparison of laryngoplasty and modified partial arytenoidectomy as treatments for laryngeal hemiplegia in exercising horses. Vet Surg. 2006 Oct;35(7):643-52.
[7] Belknap JK, Derksen FJ, Nickels FA, Stick JA, Robinson NE. Failure of subtotal arytenoidectomy to improve upper airway flow mechanics in exercising standardbreds with induced laryngeal hemiplegia. Am J Vet Res. 1990 Sep;51(9):1481-7.
[8] Davidson EJ, Parente EJ. Exercising videoendoscopic evalation of 7 horses with abnormal respiratory noise and poor performance following partial arytenoidectomy. Equine Vet Educ 2011;23:626–629.
[9] Davidson EJ, Martin BB, Rieger RH, Parente EJ. Exercising videoendoscopic evaluation of 45 horses with respiratory noise and/or poor performance after laryngoplasty. Vet Surg. 2010 Dec;39(8):942-8.

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