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馬の喉頭片麻痺での外科的治療法の比較

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一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する外科的治療では、治療成功率は60~80%と多様であることが知られており[1,2]、内視鏡で観察される披裂軟骨の外転や声門の断面積などで、治療効果が推測されてきました[3,4]。しかし、近年の研究では、喉頭から気管開口部までの構造を三次元的に解析することで、通気のメカニズムを評価できるようになってきました[5]。

そこで、下記の研究では、馬の屠体から採取した喉頭軟骨(10個)を用いて、喉頭片麻痺の病態を再現して、体外実験装置で通気負荷を掛けながら、気道機能改善を図る手術を施したときの、各部位の三次元構造の計測(CT検査)および上部気道抵抗の測定が行なわれました。手術法としては、喉頭形成術+声嚢声帯切除術、喉頭形成術+声嚢声帯切除術+披裂角切除術、披裂角切除術のみ、披裂軟骨部分切除術のみ、という四種類が含まれました。

参考文献:
Tucker ML, Wilson DG, Reinink SK, Carmalt JL. Computed tomographic geometrical analysis of surgical treatments for equine recurrent laryngeal neuropathy. Am J Vet Res. 2022 Feb 8;83(5):443-449.

この研究では、上部気道抵抗に影響を与える要素を多因子解析した結果、喉頭から声門への入射角、入口係数(喉頭と声門の断面積比率)、出口係数(声門と気管開口部の断面積比率)、摩擦係数、および、手術タイプなどが、有意に影響していることが分かりました。つまり、馬の喉頭から気管開口部に掛けての複雑な配置構造に起因して、管腔通気での流体力学作用が生じて、その影響が上部気道抵抗に及ぶことが示唆されており、これらの要素の個体差によって、手術の成功率に多様性が生まれる可能性が指摘されています。

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実際の臨床症例において、喉頭部を操作する手術(喉頭形成術や披裂軟骨切除術)だけでは気道抵抗を改善できないのは、このような複雑なメカニズムが寄与していると推測されており、流体力学的な作用を制御するため、他の治療方針(声門や気管開口部の抵抗を緩和する手法)を組み合わせることで、馬の上部気道疾患の治療成績を向上することに繋がると考察されています。上部気道の機能回復のカギは、内視鏡で見えている喉頭部よりも、更に奥の領域に潜んでいるのかもしれません。

この研究では、上部気道抵抗の平均値を見たときに、無処置(0.51kPas/L)および披裂軟骨部分切除術(0.45kPas/L)に比較して、喉頭形成術+声嚢声帯切除術(0.32kPas/L)、および、披裂角切除術(0.23kPas/L)では有意な抵抗緩和が達成されていましたが、喉頭形成術+声嚢声帯切除術+披裂角切除術(0.35kPas/L)では、統計的に有意な抵抗緩和には至っていませんでした。一方、喉頭部の断面積を見たときには、無処置(8.73cm2)に比較して、喉頭形成術+声嚢声帯切除術(12.83cm2)、および、喉頭形成術+声嚢声帯切除術+披裂角切除術(12.37cm2)では、顕著な気道拡大が示されていました。この所見は、同研究者の先行研究[5]とは相反していますが、実験モデルの違いや、屠体サンプルの個体差も影響していると推測されており、今後は、実馬の気道環境との相関を評価していく必要があると述べられています。

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Photo courtesy of Am J Vet Res. 2022 Feb 8;83(5):443-449. (doi: 10.2460/ajvr.21.03.0040.)

関連記事:
・馬のタイバック手術での二重ループ法
・馬の喉頭片麻痺に対する披裂角切除術
・馬の声帯切除術による経喉頭抵抗の緩和
・馬の舌縛りと気道内径の関連性
・ハンター競走馬の鼻出血の危険因子
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・レース中の馬の内視鏡検査

参考文献:
[1] Compostella F, Tremaine WH, Franklin SH. Retrospective study investigating causes of abnormal respiratory noise in horses following prosthetic laryngoplasty. Equine Vet J Suppl. 2012 Dec;(43):27-30.
[2] Witte TH, Mohammed HO, Radcliffe CH, Hackett RP, Ducharme NG. Racing performance after combined prosthetic laryngoplasty and ipsilateral ventriculocordectomy or partial arytenoidectomy: 135 Thoroughbred racehorses competing at less than 2400 m (1997-2007). Equine Vet J. 2009 Jan;41(1):70-5.
[3] Ahern BJ, Lim YW, van Eps A, Franklin S. In vitro evaluation of the effect of a prototype dynamic laryngoplasty system on arytenoid abduction. Vet Surg. 2018 Aug;47(6):837-842.
[4] Perkins JD, Meighan H, Windley Z, Troester S, Piercy R, Schumacher J. In vitro effect of ventriculocordectomy before laryngoplasty on abduction of the equine arytenoid cartilage. Vet Surg. 2011 Apr;40(3):305-10.
[5] Tucker ML, Sumner D, Reinink SK, Wilson DG, Carmalt JL. Ex vivo evaluation of arytenoid corniculectomy, compared with three other airway interventions, performed on cadaveric equine larynges with simulated recurrent laryngeal neuropathy. Am J Vet Res. 2019 Dec;80(12):1136-1143.
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このエントリーのタグ: 呼吸器病 手術

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