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調馬索での馬の歩様検査の正確性

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一般的に、馬の歩様検査では、軽度な跛行ほど評価が難しいことが知られており、評価者同士で跛行の有無を合意できる確率は、跛行グレードが1.5以上では93%なのに対して、1.5未満では62%に過ぎないことが報告されています[1]。このため、被験馬に調馬索運動をさせることで、跛行症状を明瞭化させる手法が頻繁に用いられていますが、回転運動における馬体動作の非対称性が評価の正確性を下げてしまう懸念もあります。

この問題を検証するため、下記の研究では、23頭の健常馬および跛行馬の歩様(計47通りの動画)を、86人の獣医師が視覚的に評価して、コーヘン・カッパ係数を算出することで、評価者間同意および評価者内同意が解析されました。

参考文献:
Hammarberg M, Egenvall A, Pfau T, Rhodin M. Rater agreement of visual lameness assessment in horses during lungeing. Equine Vet J. 2016 Jan;48(1):78-82.

結果としては、調馬索運動での歩様検査における評価者間同意の確率は、前肢跛行では33%、後肢跛行では11%に過ぎず、正常歩様では僅か8%となっていました。この場合、馬専門の臨床獣医師のほうが、小動物と半々または小動物専門の臨床獣医師に比べて、同意の確率が高くなっていました。一方、過去の文献では、直線運動での歩様検査における評価者間同意の確率は、前肢跛行で44%、後肢跛行で36%であったことが報告されています[1]。

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一方、調馬索での歩様検査における評価者内同意の確率は52%でしたが、やはりこの場合にも、馬専門の臨床獣医師(84%)のほうが、小動物と半々(57%)または小動物専門の臨床獣医師(21%)に比べて、同意確率が高い(再現性が高い)ことが分かりました。なお、馬専門の臨床医で、最も高い同意確率は87%でした。

以上の結果から、馬の跛行症状を調馬索運動で評価することは、直線運動の場合よりも難しいことが示唆され、その要因としては、左右手前の回転運動によって、馬体の動きに非対称性が生まれてしまうことが挙げられています。過去の文献でも、調馬索運動では正常歩様と跛行の鑑別が難しくなったり[2]、回転運動の半径、速度、馬体の柔軟性によって、非対称性の度合いにも多様性が出ることが報告されています[3]。

この研究のデータを見ると、前肢跛行よりも後肢跛行のほうが同意確率は低く、また、直線と調馬索での変化も大きいことが分かりました(前肢跛行:44%→33%、後肢跛行:36%→11%)。そして、実験的に発生させた前肢跛行および後肢跛行の馬を用いた場合、調馬索運動での歩様検査において、跛行肢を正しく見分けられる確率は、前肢跛行では74%、後肢跛行では37%となり、やはり後肢跛行の方が正答率は低くなっていました。

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そして、この研究では、健常馬の調馬索運動において、跛行していないという判断が同意する確率は8%に過ぎなかったことから、回転運動で馬体動作が左右非対称になることが、健常歩様を定義する際にも障壁となっていると推察されました。これに関連して、前述の実験的跛行の調馬索運動においても、評価者が跛行を見落としてしまう確率は、前肢跛行では2%、後肢跛行では7%となっており、回転運動時における自然な非対称性と、跛行に起因する非対称性が鑑別しにくくなっていると考察されています。

さらに、実際の臨床症例の跛行検査では、直線運動は硬地で実施され、調馬索運動は砂地(馬場)に移動して実施するというケースも多く、直線と回転の違いだけでなく、地面の違いも影響するため、更に歩様評価を難しくすると推測されます。このため、調馬索での歩様観察は、跛行検査の一要素に過ぎず、それ単独で疼痛箇所を特定するのは正確性が低いことを念頭に置いて、診断麻酔の前後で回転時の馬体傾斜が変化するのを精査するなどして[4]、信頼性の高い跛行検査に努めることが重要だと言えます。

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参考文献:
[1] Keegan KG, Dent EV, Wilson DA, Janicek J, Kramer J, Lacarrubba A, Walsh DM, Cassells MW, Esther TM, Schiltz P, Frees KE, Wilhite CL, Clark JM, Pollitt CC, Shaw R, Norris T. Repeatability of subjective evaluation of lameness in horses. Equine Vet J. 2010 Mar;42(2):92-7.
[2] Rhodin M, Pfau T, Roepstorff L, Egenvall A. Effect of lungeing on head and pelvic movement asymmetry in horses with induced lameness. Vet J. 2013 Dec;198 Suppl 1:e39-45.
[3] Pfau T, Stubbs NC, Kaiser LJ, Brown LE, Clayton HM. Effect of trotting speed and circle radius on movement symmetry in horses during lunging on a soft surface. Am J Vet Res. 2012 Dec;73(12):1890-9.
[4] Greve L, Pfau T, Dyson S. Alterations in body lean angle in lame horses before and after diagnostic analgesia in straight lines in hand and on the lunge. Vet J. 2018 Sep;239:1-6.

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