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調馬索と直線での馬の歩様対称性の変化

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一般的に、馬の歩様検査では、軽度な跛行ほど評価が難しいことが知られており、被験馬に調馬索運動をさせることで、跛行症状を明瞭化させる手法が用いられています。しかし、回転運動における馬体動作の非対称性が、歩様評価の正確性を下げてしまう懸念もあります。

この問題を検証するため、下記の研究では、201頭の健常馬を用いて、直線運動および調馬索運動における頭頂部/仙骨部の動きを加速度センサーで計測して、直線と左右の回転運動の違いが評価されました。

参考文献:
Rhodin M, Roepstorff L, French A, Keegan KG, Pfau T, Egenvall A. Head and pelvic movement asymmetry during lungeing in horses with symmetrical movement on the straight. Equine Vet J. 2016 May;48(3):315-20.

結果としては、馬主が無跛行だと見なしていた201頭のうち、直線運動で頭部と骨盤の動きが左右対称であったのは94頭に留まりました。このうち、調馬索での回転運動において、頭頂部の上下動が左右手前で同等であった馬は41%(39/94頭)、仙骨部の上下動が左右手前で同等であった馬は46%(43/94頭)に過ぎませんでした。つまり、いずれの馬体部位においても、左右の回転運動で、上下動の非対称性を示す馬が過半数を占めていました。

そして、頭頂部の上下動において、左右手前で非対称となった馬では、外側前肢の離地期における上向き変位の増加、および、内側前肢の接地期における下向き変位の減少、の何れかを示した馬が49%(19/39頭)に達していました。一方、仙骨部の上下動において、左右手前で非対称となった馬では、外側後肢の離地期における上向き変位の減少、および、内側後肢の接地期における下向き変位の減少、の何れかを示した馬が56%(19/39頭)となっていました。

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さらに、直線運動での頭頂部の上下動閾値に比べて、回転運動での上下動が左右手前の何れかだけ越えていた馬は56%(53/94頭)に及び、一方で、直線運動での仙骨部の上下動閾値に比べて、回転運動での上下動が左右手前の何れかだけ越えていた馬は64%(60/94頭)に達していました。つまり、いずれの馬体部位においても、直線運動よりも回転運動で上下動が増加する徴候が、左右手前で非対称である馬が過半数を占めていたことになります。

以上の結果から、馬主が健常だと判断していた馬でも、その53%(107/201頭)において、頭部/骨盤の上下動に左右非対称性が認められ(直線運動、上図)、極めて軽度の跛行もしくは古傷をかばった肢運びをしていたと推測されました。そして、これらの馬を除外した場合にも、回転運動において、頭部/骨盤の上下動が左右非対称であった馬が半数近くに及んでいたことから、調馬索にて右手前と左手前の動きが異なるという所見だけでは、跛行であるという診断は下しにくいと考えられました。さらに、殆どの馬において、直線よりも回転運動のほうが、頭部/仙骨の上下動が増加する徴候が認められたものの、この増加徴候が、左右対称的であった馬は半数以下に留まっていたことから、直線と調馬索を比較して、片方の手間だけ点頭運動/ヒップボブが増加するという所見だけでは、跛行であるという診断は下しにくいと推測されています。

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加えて、頭頂部の上下動において、直線運動よりも回転運動で、内方前肢の接地時に増加していた馬は49%(46/94頭)に過ぎず、同様に、仙骨部の上下動においても、直線運動よりも回転運動において、内方後肢の接地時に増加していた馬は48%(45/94頭)に留まっていました。このため、調馬索においては内方肢での点頭運動またはヒップボブが助長される(内側にくる前後肢が接地するときに頭部/骨盤が挙上する)という経験則は、実際には半数以下の馬でしか起こらないことが示されました。つまり、調馬索での歩様検査では、外方の前後肢の接地時に頭部/骨盤挙上を呈するケースも多いことを念頭において、内外側両方の肢を注視して歩様観察する必要があると考えられました。

この研究の結果から、直線と調馬索での歩様比較では、跛行を明瞭化することもあれば、跛行でなくても左右非対称性を示すこともあるため、そのような徴候だけで跛行の有無、または、跛行肢の特性をするのは正確性が低いと考えられます。このため、診断麻酔の前後での歩様変化などを最終的な判断指標とすることで、跛行検査の信頼性を高める努力が重要だと言えそうです。なお、この研究では、調馬索を実施する地面の違い(硬地 v.s. 砂地)は、健常馬の歩様評価に対しては、統計的に有意な影響は与えないことも示されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2016 May;48(3):315-20. (doi: 10.1111/evj.12446.)

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このエントリーのタグ: 跛行 検査 サイエンス

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