馬の文献:炎症性気道疾患(Allen et al. 2006)
文献 - 2023年01月11日 (水)
「プアパフォーマンスの診断のため来院した全米狩猟競技馬における炎症性気道疾患の有病率」
Allen KJ, Tremaine WH, Franklin SH. Prevalence of inflammatory airway disease in national hunt horses referred for investigation of poor athletic performance. Equine Vet J Suppl. 2006; (36): 529-534.
この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の病態把握のため、2003~2005年にかけて、プアパフォーマンスの診断(Investigation of poor athletic performance)のため来院した91頭の全米狩猟競技馬(National hunt horses)における、トレッドミル運動後の気管洗浄(Tracheal wash)および気管支肺胞洗浄(Bronchoalveolar lavage)が行われました。
結果としては、91頭の患馬のうち、内視鏡(Endoscopy)の所見として気管粘液(Thacheal mucus)が認められた馬は68%、下部気道炎症(Lower airway inflammation)が認められた馬は70%に上っていました。このため、狩猟競技馬におけるプアパフォーマンスでは、炎症性気道疾患が重要な原因疾患の一つである事が示唆されました。一方で、炎症性気道疾患の有病率(Prevalence)と、患馬の年齢とのあいだには有意な相関は見られず、高齢馬ほど有病率が低い傾向にある競走馬とは(Burrell et al. Vet Rec. 1996;139:308, Wood et al. EVJ. 2005;37:236)、明らかに異なった病態分布を示していました。このため、狩猟競技馬における炎症性気道疾患の病因論(Etiology)には、持続性の呼吸器感染(=加齢に伴って免疫対抗を獲得できる)の他にも、環境因子(Environmental factors)が寄与している面が大きい、という考察がなされています。
この研究では、91頭の患馬のうち、気管洗浄において好中球の割合(Proportions of neutrophils)が増加していた馬は40%に留まったのに対して、気管支肺胞洗浄において好中球の割合が増加していた馬は59%に上っており、この二つの診断法のあいだには低い同意性(Poor agreement)しか無かった事が報告されています。また、内視鏡所見として気管粘液は、気管洗浄の検査値とは相関していたものの、気管支肺胞洗浄の細胞学的所見(Cytologic results)とは相関していませんでした。このため、気管洗浄の検体は、下部気道炎症の病態を正確には反映していない場合もある、という他の文献の知見を(Derksen et al. EVJ. 1989;21:23, Gerber et al. EVJ. 2003;35:491)、裏付けるデータが示されたと考察されています。
一般的に、競走馬における炎症性気道疾患の発症には、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage: EIPH)が関与している可能性が示唆されており(Newton and Wood. EVJ Suppl. 2002;34:417)、気道内への血液注入(Blood installation into airway)によって好中球数増加が見られたという実験結果もあります(McKane and Slocombe. EVJ Suppl. 1999;30:126)。また、炎症性気道疾患に起因するプアパフォーマンスでは、他の上部呼吸器閉塞(Upper respiratory tract obstruction)の併発が見られる事が多く、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate: DDSP)と炎症性気道疾患とのあいだに因果関係(Causality)が存在する、という知見も示されています(Courouce-Malblanc et al. EVJ Suppl. 2002;34:402)。しかし、今回の研究では、炎症性気道疾患の有病率と、これらの疾患(EIPHおよびDDSP)の発現が相関するという結果は見られず、他の上部&下部呼吸器疾患の併発が、炎症性気道疾患の危険因子になりうる、という仮説を裏付けるデータは示されませんでした。
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この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の病態把握のため、2003~2005年にかけて、プアパフォーマンスの診断(Investigation of poor athletic performance)のため来院した91頭の全米狩猟競技馬(National hunt horses)における、トレッドミル運動後の気管洗浄(Tracheal wash)および気管支肺胞洗浄(Bronchoalveolar lavage)が行われました。
結果としては、91頭の患馬のうち、内視鏡(Endoscopy)の所見として気管粘液(Thacheal mucus)が認められた馬は68%、下部気道炎症(Lower airway inflammation)が認められた馬は70%に上っていました。このため、狩猟競技馬におけるプアパフォーマンスでは、炎症性気道疾患が重要な原因疾患の一つである事が示唆されました。一方で、炎症性気道疾患の有病率(Prevalence)と、患馬の年齢とのあいだには有意な相関は見られず、高齢馬ほど有病率が低い傾向にある競走馬とは(Burrell et al. Vet Rec. 1996;139:308, Wood et al. EVJ. 2005;37:236)、明らかに異なった病態分布を示していました。このため、狩猟競技馬における炎症性気道疾患の病因論(Etiology)には、持続性の呼吸器感染(=加齢に伴って免疫対抗を獲得できる)の他にも、環境因子(Environmental factors)が寄与している面が大きい、という考察がなされています。
この研究では、91頭の患馬のうち、気管洗浄において好中球の割合(Proportions of neutrophils)が増加していた馬は40%に留まったのに対して、気管支肺胞洗浄において好中球の割合が増加していた馬は59%に上っており、この二つの診断法のあいだには低い同意性(Poor agreement)しか無かった事が報告されています。また、内視鏡所見として気管粘液は、気管洗浄の検査値とは相関していたものの、気管支肺胞洗浄の細胞学的所見(Cytologic results)とは相関していませんでした。このため、気管洗浄の検体は、下部気道炎症の病態を正確には反映していない場合もある、という他の文献の知見を(Derksen et al. EVJ. 1989;21:23, Gerber et al. EVJ. 2003;35:491)、裏付けるデータが示されたと考察されています。
一般的に、競走馬における炎症性気道疾患の発症には、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage: EIPH)が関与している可能性が示唆されており(Newton and Wood. EVJ Suppl. 2002;34:417)、気道内への血液注入(Blood installation into airway)によって好中球数増加が見られたという実験結果もあります(McKane and Slocombe. EVJ Suppl. 1999;30:126)。また、炎症性気道疾患に起因するプアパフォーマンスでは、他の上部呼吸器閉塞(Upper respiratory tract obstruction)の併発が見られる事が多く、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate: DDSP)と炎症性気道疾患とのあいだに因果関係(Causality)が存在する、という知見も示されています(Courouce-Malblanc et al. EVJ Suppl. 2002;34:402)。しかし、今回の研究では、炎症性気道疾患の有病率と、これらの疾患(EIPHおよびDDSP)の発現が相関するという結果は見られず、他の上部&下部呼吸器疾患の併発が、炎症性気道疾患の危険因子になりうる、という仮説を裏付けるデータは示されませんでした。
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