腹水検査での産後牝馬の診断
話題 - 2023年01月11日 (水)

腹水検査は、疝痛などの馬の腸管疾患での診断法の一つとして実施されており、罹患臓器のすぐ傍にある体液の性状を評価できる点で、多様な腹腔内病態の有無や重篤度を診断する一助になると言われています。
ここでは、出産後の牝馬における腹水検査の所見について調査した知見を紹介します。この研究では、英国とオーストラリアの二箇所の馬病院において、出産後の救急医療診察を受けた110頭の牝馬における腹水検査の所見と、医療記録の回顧的解析が行なわれました。
参考文献:
Offer KS, Russell CM, Carrick JB, Wallington CE, Cudmore LA, Cuming RS, Collins NM. Peritoneal fluid analysis in equine post-partum emergencies admitted to a referral hospital: A retrospective study of 110 cases. Equine Vet J. 2022 Nov;54(6):1023-1030.
結果としては、出産後緊急症例の牝馬110頭のうち、一次性疾患としては、消化器疾患の罹患馬が30%(33/110頭)、泌尿生殖器疾患の罹患馬が50%(55/110頭)、産後出血の罹患馬が20%(22/110頭)となっていました。このうち、腹水中のヘマトクリット値(PCV値)、有核細胞数(WBC数)、および、腹水塗抹での細胞診によって、疾患種別の鑑別診断に有用であったことが示されました。

この研究では、産後出血の診断指標として、腹水中のPCV値上昇、変性した好中球の比率減少、腹水WBC数減少などが、発症率と有意な正の相関を示しており、他疾患と産後出血の鑑別診断のために有用であると考えられました。なお、全症例での短期生存率(生存して退院できた症例の割合)は55%(60/110頭)となっていました。
一般的に、腸捻転などの絞扼性消化器疾患においては、漏出性に血液成分の腹水濃度が上昇することから、蛋白濃度上昇およびWBC数増加が顕著である一方、PCV値上昇は特異的ではないと言われています。また、腸内細菌を包含した管腔臓器が虚血を起こすことで、内毒素血症を続発したり、遊走細菌の貪食作用で変性した好中球が増加することも特徴的な所見であることが知られています。このため、これらの所見の有無が、細菌貪食や内毒素の関与が少ない産後出血症を鑑別するのに寄与したと考察されています。

この研究では、腹水検査の項目のうち、単独で疾患タイプの鑑別が可能となったものは無いことが報告されており、腟鏡検査や直腸検査、腹部エコー検査などの所見を併用して、総括的な診断を下すことの重要性を再確認するデータが示されたと言えます。一方、出産後の繁殖牝馬では、結腸捻転などの重篤な消化器疾患の発症率も高いことから、泌尿生殖器との鑑別診断が重要となるケースも多いと推測され、積極的に腹水の採取と検査を行なうことで、早期診断を下したり、適宜な外科的処置の遅延を避けられる点で有益であると考察されています。
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