馬の腹水採取のためのエコー検査
話題 - 2023年01月12日 (木)

腹水検査は、疝痛などの馬の腸管疾患での診断法の一つとして実施されており、罹患臓器のすぐ傍にある体液の性状を評価できる点で、多様な腹腔内病態の有無や重篤度を診断する一助になると言われています。
ここでは、腹水採取のための腹部エコー検査所見について調査した知見を紹介します。この研究では、イタリアのペルージャ大学の獣医病院において、腹部エコー検査の実施と腹水検査が試みられた109頭の症例馬における医療記録の回顧的解析が行なわれました。
参考文献:
Beccati F, Nannarone S, Gialletti R, Lotto E, Cercone M, Dante S, Bazzica C, Pepe M. Evaluation of transabdominal ultrasound as a tool for predicting the success of abdominocentesis in horses. Vet Rec. 2014 Mar 8;174(10):251.
結果としては、109頭の症例馬に実施された腹部エコー検査において、画像上で腹水が確認できなかった馬(28%)のうち、腹壁穿刺で腹水が採取できたのは70%となっていました。一方、エコー画像で腹水が確認されたのは72%で、このうち、腹壁穿刺で腹水が採取できたのは93%に上りました。その結果、エコー画像で腹水が視認できたか否かは、検査可能量の腹水が採取できることと有意に相関していました。

この研究では、腹部エコー画像で腹水が認められない場合でも、七割の確率で腹水サンプルを採取可能であることが示されました。この理由としては、蠕動運動で消化管の位置が変位して、穿刺箇所に腹水が存在していたこと、針穿刺による空気迷入で穿刺部に空域が生じて腹水が流入したこと、などが挙げられています。また、腹水検体中の蛋白濃度の測定や、塗抹鏡検での細胞診は、3~4滴の腹水があれば十分に実施可能であることから、エコーには映らないほど少量の腹水でも、検査結果が得られたことも要因だと推測されます。
一般的に、馬の腹腔穿刺においては、最も多く起こる合併症として、腸管穿刺と、それに続発する医原性腹膜炎が挙げられています。このため、エコー画像で腹水が確認できなかった場合には、腸管穿刺のリスクも高いと推測されることから、その予防対策として、注射針の代わりにカニューレを使用すること、エコー画像で腹壁の厚みを測って、針穿刺する深度の目安とすること、注射針を腹壁に対して斜めに刺入させること(針先の刃面が漿膜と平行になる角度)、および、直腸検査を先に実施して、重度の結腸膨満が起きている場合には、腹腔穿刺を回避すること、などが挙げられています。

Photo courtesy of Vet Rec. 2014 Mar 8;174(10):251. (doi: 10.1136/vr.102113.), and J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2022 Jan;32(S1):72-80. (doi: 10.1111/vec.13118.)
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