fc2ブログ
RSS

馬はサク癖を見て真似をする?

20221105_Blog_Topic190_CribBrdPrdsOwPcptn_Pict1.jpg

サク癖は、馬用語で「グイッポ」とも呼ばれ、固定された物体を前歯で咥えて、それを支点にして頭頚部を屈曲させながら空気を飲み込むような動作を指します。

ここでは、馬がサク癖を始める要因について調査した知見を紹介します。この研究では、米国のコーネル大学の調査で、401名の馬主に対して聞き取り調査が行なわれ、計3,574頭の飼養馬におけるサク癖の発生状況の調査、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Albright JD, Mohammed HO, Heleski CR, Wickens CL, Houpt KA. Crib-biting in US horses: breed predispositions and owner perceptions of aetiology. Equine Vet J. 2009 May;41(5):455-8.

結果としては、調査対象の3,574頭のうち、サク癖の発生率は4.4%(162/3,574頭)であり、このうち、サラブレッド種での発生率が13.3%(16/120頭)と最も高く、次いで、ウォームブラッド種が5.5%となっていました。その結果、クォーターホース種(発生率4.8%)およびアラブ種(発生率3.0%)と比較して、サラブレッドのほうが二倍~五倍もサク癖をしやすい(順にOR=2.19およびOR=5.0)という傾向が認められました。

この研究では、馬がサク癖を始める要因として、飼養環境の影響と回答した馬主は54.5%で、他の馬がサク癖しているのを見て真似をすると回答した馬主も48.8%に達していました。しかし、サク癖行動を取っていた馬のうち、実際に、他の馬がサク癖をする目にしていたのは僅か1%に留まっていました。なお、馬の品種や血統などの遺伝性素因が、サク癖の発生に影響すると回答した馬主は3.4%に過ぎませんでした。

20221105_Blog_Topic190_CribBrdPrdsOwPcptn_Pict2.jpg

この研究では、各馬の飼養環境の違いによるサク癖の発生率を比較したところ、単独で飼養されている馬では12.3%に上ったのに対して、他の馬と一緒に放牧されている馬では5.9%、他の馬を観察できる馬では5.9%、他の馬を観察および接触できる馬では5.6%となっていました。このため、他の馬の行動を観察できる飼養環境でも、サク癖の発生率は上がらないだけでなく、他馬との視覚的/直接的な接点がない馬ほど、サク癖しやすい傾向が認められました。

以上の結果から、馬がサク癖を始めるときには、他の馬のサク癖行動を見て真似をするという要因は非常に小さいと推測され、馬主の見解とは隔たりがあることが分かりました。過去の文献でも、サク癖は他の馬の真似をすることで覚える、と回答した馬主が72%に上ったという報告があります[1]。一方、他の文献では、馬が新しい調教内容を学習するときには、既に体得している他馬の行動を目にすることで、より学び易くなるという知見もあることから[2]、ストレスの多い環境に置かれた馬が、他馬のサク癖行動を目にすることで、同じ行動を開始する一要素となる可能性は否定できないと考察されています。

また、この研究では、サラブレッド種のほうが他品種に比べて、サク癖をする割合が有意に高いというデータが示されており、この要因としては、ストレスを受けやすい気性の馬が多いという理由の他にも、レース前に長距離輸送や飼料制限があるなどの、使役環境に起因するストレスが関与していた可能性も指摘されています。一方で、今回の調査対象となった馬のうち、サラブレッド種の割合は3.4%(120/3,574頭)とかなり低いことから、サク癖する馬が数頭増えるだけで発生率の数値が上がり易いなど、データ解析の不安定性があったという懸念も示されています。

20221105_Blog_Topic190_CribBrdPrdsOwPcptn_Pict3.jpg

なお、この研究では、単独で飼養されている馬では(一頭飼育の個人馬主)、サク癖の発生率が12%以上と、比較的に高い値を示していました。この要因としては、他の馬との接触が無いことが、孤独感や退屈さを助長して、サク癖の発生要因となった可能性がありますが、単独で飼養されている馬は僅か21頭(全体の0.06%)であったことから、これを結論付けるには、よりサンプル数の多い追加研究を要すると考察されています。

いずれにしても、約20頭に一頭の馬はサク癖をする(サラブレッドに限れば七頭に一頭)という調査結果を見ると、馬のウェルフェア向上のためには、サク癖の発生メカニズムを行動学的に解明する努力を続けて、効果的な予防対策を確立していくことが大切だと述べられています。また、馬主の見解と実状との乖離についても、適宜の情報発信が有益だと考えられます。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.

参考文献:
[1] McGreevy PD, French NP, Nicol CJ. The prevalence of abnormal behaviours in dressage, eventing and endurance horses in relation to stabling. Vet Rec. 1995 Jul 8;137(2):36-7.
[2] Krueger K, Heinze J. Horse sense: social status of horses (Equus caballus) affects their likelihood of copying other horses' behavior. Anim Cogn. 2008 Jul;11(3):431-9.

関連記事:
・山羊を同居させると馬のサク癖が減る?
・大麻の成分で馬のサク癖を治せる?
・サク癖する馬は疝痛になり易い?
・馬のサク癖では空気を飲んでいない?
・馬のサク癖と疝痛は関係している?
・馬のサク癖は管理法の改善で減少できる!
関連記事
このエントリーのタグ: 行動学 飼養管理

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: アラフィフ
住所: 北関東
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

質問、御意見、記事の要望等は下記まで
E-mail: rowdyponies@gmail.com

最新記事

ブログメニュー

馬の話題カテゴリー

馬の病気の話題
・蹄葉炎, 切腱術
・ナビキュラー症候群
・蹄病一般, 装蹄
・腱靭帯疾患
・背部/腰部/仙腸部疾患
・プアパフォーマンス
・消化器疾患一般
・胃潰瘍
・虚血再灌流障害
・呼吸器の医療
・神経疾患, 神経学検査
・クッシング病
・繁殖疾患と繁殖学
・皮膚病の医療
・眼科疾患, 眼科治療
・歯科疾患, 歯科治療
・寄生虫病
・高齢馬の医療
・子馬の病気や管理法
・子馬/若齢馬の長期的影響
・突然死
・症例シリーズ

馬の医療の話題
・疝痛の検査
・経鼻チューブ
・腹水検査
・疝痛の予防
・疝痛の手術判断と予後予測
・開腹術の手技や合併症
・疝痛の外科的処置
・疝痛の獣医療での地域差
・跛行検査, 画像診断
・関節鏡
・去勢, 泌尿生殖器
・抗生物質
・局所肢灌流
・COX-2限定阻害薬
・破骨細胞抑制剤
・ショックウェーブ
・パーグ治療
・馬のハンドリング, 投薬
・バイオマーカー
・麻酔
・整形外科
・キャスト, ピンキャスト
・再生医療
・先端医療
・良い死(Euthanasia)
・馬の獣医療一般

馬の一般的話題
・馬の飼養管理一般
・飼養管理での病気/怪我の予防
・馬学一般
・ウマ社会の話題
・獣医学一般, 日常
・馬の飼料
・跛行と運動
・調馬索
・サク癖
・馬の行動学や悪癖
・ハミや馬具
・輸送
・怪我や事故の予防,対処法
・ホースマンの怪我と事故
・競馬での事故死や骨折
・馬とヒト, 伝染病, 馬動物学

馬の診療シリーズ

サイト内タグ一覧

FC2カウンター

リンク

カレンダー

03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -

推薦図書

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
27位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
2位
アクセスランキングを見る>>

FC2ブログランキング

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

QRコード

QR