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サク癖する馬は疝痛になり易い?

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サク癖は、馬用語で「グイッポ」とも呼ばれ、固定された物体を前歯で咥えて、それを支点にして頭頚部を屈曲させながら空気を飲み込むような動作を指します。

ここでは、サク癖をする馬としない馬で、疝痛の発生状況の違いを比較した知見を紹介します。この研究では、米国のUCデービスの獣医大学病院にて、2006~2008年に診察を受けた227頭の疝痛馬および347頭の対照馬において、馬主への聞き取り調査および疝痛病態に関する医療記録の回顧的調査、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Malamed R, Berger J, Bain MJ, Kass P, Spier SJ. Retrospective evaluation of crib-biting and windsucking behaviours and owner-perceived behavioural traits as risk factors for colic in horses. Equine Vet J. 2010 Nov;42(8):686-92.

結果としては、サク癖をする馬の割合は、疝痛馬群では11%(25/227頭)であり、対照馬群での6.3%(22/347頭)よりも有意に高くなっており、サク癖をする馬では疝痛馬群に含まれる確率が二倍近く増加する(OR=1.85)ことが分かりました。一方で、熊癖をする馬の割合は、疝痛馬群(4.8%)と対照馬群(3.5%)で有意差が無く、旋回癖のある馬の割合も、疝痛馬群(9.7%)と対照馬群(7.9%)で有意差が無いことが分かりました。そして、蹴癖、前掻き、木かじり、床舐めなどの悪癖をする馬に関しても、疝痛との有意な関連性は認められませんでした。

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この研究では、疝痛の疾患別にサク癖をする馬の割合が調査され、それには、盲腸鼓脹(いわゆる風気疝)、結腸食滞(いわゆる便秘疝)、結腸捻転、結腸変位、砂疝、腸結石、網嚢孔捕捉などが含まれましたが、サク癖する馬としない馬とで、どの疾患の発症率にも有意差は無いことが分かりました。また、疝痛の重篤度についても調査され、補液などの内科的治療のみで完治した症例(軽症疝痛)と、開腹術による外科的治療を要した症例(重度疝痛)とに分類されましたが、サク癖する馬としない馬とで、軽症または重症の疝痛になる比率に有意差は無いことが示されました。

この研究では、疝痛馬と対照馬を比較して、疝痛発症の危険因子を解析したところ、20歳以上の高齢馬では、疝痛になるリスクが二倍以上も高くなる(20~24歳ではOR=2.85、25歳以上ではOR=2.43)ことが示されました。一方、馬の品種や性別、神経質な性格であるか否かは、疝痛の発症とは相関していませんでした。そして、飼養管理に関する要因としては、直近一週間で飼養環境に変化があった馬では、疝痛になるリスクが四倍近く高くなる(OR=3.93)という結果が示されました。

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以上の結果から、サク癖をする馬においては、疝痛の有病率が高い傾向が認められたものの、疝痛馬群に占める割合は11%に過ぎず、発症する疾患の種類や重篤度との関連性も認められないことから、サク癖すること自体が疝痛のリスクを上げるという、因果関係の証明/推測は出来ないと結論付けられています。そして、サク癖を誘発するようなストレスの多い飼養環境(放牧が少ない、飼い付け回数が少ない、粗飼料の不足など)に置かれることが疝痛の原因となっている(サク癖は原因ではなく結果)、という可能性が指摘されており、また、疝痛の危険因子としては、加齢や飼養環境の急激な変化のほうが、影響力が大きいというデータが示されています。

この研究では、疝痛の原因疾患について分類して調査され、通説的に言われている、サク癖する馬には風気疝(盲腸鼓脹)が多いというデータは確認されませんでした。過去の文献[1]では、サク癖の動作中の透視装置撮影によって、実際には空気を嚥下していないことが示されており、サク癖と消化器のガス性膨満には関連性が無いと考えられています。また、他の文献[2]では、サク癖と網嚢孔捕捉の発症が関連するという知見もありますが、今回の研究では、その傾向は認められませんでした。さらに、他の文献[3]では、サク癖と側頭舌骨変形性関節症の発症が関連しているという知見もありますが、今回の研究では、消化器以外の疾患との関連性は調査されていませんでした。

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参考文献:
[1] McGreevy PD, Richardson JD, Nicol CJ, Lane JG. Radiographic and endoscopic study of horses performing an oral based stereotypy. Equine Vet J. 1995 Mar;27(2):92-5.
[2] Archer DC, Freeman DE, Doyle AJ, Proudman CJ, Edwards GB. ssociation between cribbing and entrapment of the small intestine in the epiploic foramen in horses: 68 cases (1991-2002). J Am Vet Med Assoc. 2004 Feb 15;224(4):562-4.
[3] Saito Y, Amaya T. ymptoms and management of temporohyoid osteoarthropathy and its association with crib-biting behavior in 11 Japanese Thoroughbreds. J Equine Sci. 2019;30(4):81-85.

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このエントリーのタグ: 行動学 飼養管理 疝痛 呼吸器病

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