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馬の虚血再灌流障害でのポストコンディショニング

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馬の小腸の絞扼性疾患(空腸捻転や有茎性脂肪腫、網嚢孔捕捉など)では、絞扼を整復して虚血していた箇所に血流を回復させると、その再灌流が原因で組織損傷が起こってしまうという現象が知られており、また、その際に流出する炎症性物質によって、他の部位の腸管が通過障害(術後イレウス)を続発したり、全身の多臓器が損傷を受けるという危険性が指摘されています。

ここでは、そのような虚血再灌流障害(Ischemia-reperfusion injury)を予防するための方法として、虚血ポストコンディショニング((Ischaemic post-conditioning: IPoC)の効果を検証した知見を紹介します。この研究では、14頭の実験馬を用いて、全身麻酔下の開腹術で空腸にアプローチした後、90分間の虚血状態を作り出し、それを単に再灌流させた場合と(対照群)、再灌流と再度の血流遮断を30秒おきに三回繰り返した場合で(IPoC群)、脈管循環と酸素化の測定、および、腸壁の組織学的検査が行なわれました。

参考文献:
Verhaar N, Breves G, Hewicker-Trautwein M, Pfarrer C, Rohn K, Burmester M, Schnepel N, Neudeck S, Twele L, Kastner S. The effect of ischaemic postconditioning on mucosal integrity and function in equine jejunal ischaemia. Equine Vet J. 2022 Mar;54(2):427-437.

結果としては、対照群と比較して、IPoC群では、血流遮断するたびに脈管循環は減少していたものの、初回以降では酸素飽和度は変化していませんでした。また、IPoC群では、粘膜絨毛露出が有意に少ない(腸粘膜バリアーの機能温存)ことが分かり、粘膜から漿膜への流動速度も有意に減少(傍細胞不透過性の維持)していました。一方で、タイトジャンクション構成蛋白質(Claudin-1, Claudin-2, Occludin)の活性には、両群で有意差は認められませんでした。

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以上の結果から、馬の空腸における虚血再灌流障害に対しては、IPoC処置を施すことで、小腸粘膜への組織損傷を抑えられる可能性が示唆されました。ただ、腸管の生存性の影響や、蠕動機能の回復度合い、および、術後イレウスの発生率などは評価されておらず、今後の研究では、実験モデルを用いた長期的な経過追跡や、実際の小腸絞扼症例への臨床応用を通して、生物学的に有意な虚血再灌流障害の予防効果が得られるか否かを評価する必要があると考察されています。

ヒト医療における虚血ポストコンディショニングは、主に急性心筋梗塞の治療に適応されており、血栓を溶解させた後、血流再開と再遮断を30~60秒おきに数回繰り返すという手法が取られており[1]、また、動物実験では、虚血状態の腸管にも応用されており、細胞死や組織浮腫を抑える効果が示されています[2]。IPoC処置によって、虚血再灌流障害が減退されるメカニズムとしては、低酸素誘導因子アルファの活性亢進や、アルドース還元酵素などの組織修復に役立つ物質が、急激な再灌流で洗い流されるのを抑えることが挙げられています[3,4]。

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今回の実験モデルでは、虚血再灌流を作成した空腸が1メートルと短かったため、数ヶ所の腸間膜脈管を止血鉗子で掴んだり放したりすることで、血流の再開と再遮断が繰り返されました。しかし、実際の臨床症例では、より長い距離の空腸が虚血に陥る場合も多いと推測され、その場合には、血流を再遮断する手法として、腸間膜根側の太い脈管を用手で圧迫したり、捻転や絞扼していた箇所を整復するのを、段階的に行なうなどの手法が提唱されています。勿論、重度の虚血性壊死を起こしていて、罹患部の切除と吻合術を要するのが確実なケースでは、IPoC処置を施す価値は低いと推測されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2022 Mar;54(2):427-437. (doi: 10.1111/evj.13450.)

参考文献:
[1] Lou B, Cui Y, Gao H, Chen M. Meta-analysis of the effects of ischemic postconditioning on structural pathology in ST-segment elevation acute myocardial infarction. Oncotarget. 2017 Dec 16;9(8):8089-8099.
[2] Chu W, Li S, Wang S, Yan A, Nie L. Ischemic postconditioning provides protection against ischemia-reperfusion injury in intestines of rats. Int J Clin Exp Pathol. 2015 Jun 1;8(6):6474-81.
[3] Jia Z, Lian W, Shi H, Cao C, Han S, Wang K, Li M, Zhang X. Ischemic Postconditioning Protects Against Intestinal Ischemia/Reperfusion Injury via the HIF-1α/miR-21 Axis. Sci Rep. 2017 Nov 23;7(1):16190.
[4] Wen SH, Ling YH, Li Y, Li C, Liu JX, Li YS, Yao X, Xia ZQ, Liu KX. Ischemic postconditioning during reperfusion attenuates oxidative stress and intestinal mucosal apoptosis induced by intestinal ischemia/reperfusion via aldose reductase. Surgery. 2013 Apr;153(4):555-64.

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