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馬の文献:炎症性気道疾患(Richard et al. 2012)

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「炎症性気道疾患の罹患馬におけるサーファクタント蛋白Dの血清濃度」
Richard EA, Pitel PH, Christmann U, Lekeux P, Fortier G, Pronost S. Serum concentration of surfactant protein D in horses with lower airway inflammation. Equine Vet J. 2012; 44(3): 277-281.

この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の有用な診断法を検討するため、42頭のスタンダードブレッド競走馬における、内視鏡検査(Endoscopy)、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の細胞学的検査(Cytologic examination)、および、安静時とトレッドミル運動後の、サーファクタント蛋白D(Surfactant protein D)の血清濃度(Serum concentration)の測定が行われました。

結果としては、42頭の患馬のうち、気管支肺胞洗浄液の検査結果から、22頭が炎症性気道疾患の罹患馬、20頭が対照馬(Control horses)に分類され、症例馬のほうが対照馬に比べて、安静時およびトレッドミル運動後のいずれにおいても、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が有意に高かった事が示されました。このため、スタンダードブレッド競走馬においては、血清中のサーファクタント蛋白D濃度が、炎症性気道疾患の生物指標(バイオマーカー:Biomarker)として応用可能であり、疾患の早期発見およびスクリーニングに有用である可能性が示唆されました。一方、サーファクタント蛋白Dの血清濃度と、気管支肺胞洗浄液の細胞学的検査値とのあいだには、有意な相関は認められず、血清中のサーファクタント蛋白D濃度が、炎症性気道疾患の病態の重篤度(Severity)を評価するための、定量的指標(Quantitative parameter)になりうるか否かに関しては、肺機能検査(Lung function testing)等を併用した実験による更なる検討を要すると考えられました。

一般的に、サーファクタント蛋白Dは、コレクチン系統蛋白(Collectin family protein)に分類される生体防御レクチンの一つで、主に、肺胞二型細胞(Alveolar type-2 cells)や無繊毛性気管支内皮細胞(Non-ciliated bronchiolar epithelium cells: Clara cells, etc)によって合成され、病原体浄化(Clearance of pathogens)のための生得的肺防御(Innate pulmonary defense)の機能を担うことが知られています(Wright. Nat Rev Immunol. 2005;5:58)。そして、人間の医学領域では、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が、慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease)などの炎症性肺疾患(Pulmonary inflammatory diseases)における、診断指標および予後判定指標(Predictive and prognostic marker)として応用されています(Hartl and Griese. Eur J Clin Invest. 2006;36:423, Lomas et al. Eur Respir J. 2009;34:95)。一方、馬に対する応用例としては、実験的な細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)の罹患馬において、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が、有意に上昇する事が報告されています(Hobo et al. J Vet Med Sci. 2007;69:827)。

一般的に、サーファクタント蛋白Dの血清濃度は、呼吸器の異常によって特異的に変化するわけではなく、生殖器官(Reproductive tract)や関節液(Joint fluid)からも検出されているため(Kankavi and Roberts. Can J Vet Res. 2004;68:146, Kankavi et al. Anim Reprod Sci. 2007;98:259, Sorensen et al. Immunobiol. 2007;212:381)、実際の臨床症例における検査値の解釈(Interpretation)には、併発疾患の存在を考慮する必要があると考えられます。また、馬への臨床応用に際しては、サーファクタント蛋白Dの血清濃度によって、炎症性気道疾患の発見だけではなく、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)や回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)などの、他の呼吸器疾患との鑑別診断(Differential diagnosis)が可能であるか否かについても、今後の検証を要すると考察されています。

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