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馬の病気:結節間滑液嚢炎

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結節間滑液嚢炎(Intertubercular bursitis)について。

結節間滑液嚢(Intertubercular bursa)は二頭筋滑液嚢(Bicipital bursa)とも呼ばれ、上腕二頭筋腱(Bicep brachii muscle tendon)と近位上腕骨頭側面のM字型結節(M-shaped tubercules at cranial aspect of proximal humerus)のあいだに位置し、二頭筋腱がこの結節溝の上を効率よく滑り運動するのを支持する機能を担っています。結節間滑液嚢に起こる非感染性の炎症(Non-infectious inflammation)の病因としては、蹴傷や衝突などの肩部への外傷や、転倒時に肩関節屈曲と肘関節伸展が重なる事(Simultaneous shoulder flexion and elbow extension)による上腕二頭筋腱の過剰牽引(Over-stretching)などが挙げられています。また、感染性の結節間滑液嚢炎(Infectious intertubercular bursitis)は、穿孔性外傷(Penetrating wound)や血行性の細菌感染波及(Hematogenous spread of infection)によって引き起こされると考えられています。

結節間滑液嚢炎の症状としては、歩様の頭側相短縮(Shortened cranial phase of gait)を特徴とする、急性発現性(Acute onset)の中程度~重度跛行(Moderate to severe lameness)を示し、肩関節頭側面の腫脹(Swelling)や圧痛(Pain on palpation)が見られる場合もあります。感染性の結節間滑液嚢炎を起こした症例では、重度~不負重性跛行(Severe to non-weight-bearing lameness)に併せて、患部の熱感を呈することが一般的です。

結節間滑液嚢炎の診断では、視診と触診によって推定診断が付けられ、結節間滑液嚢の診断麻酔(Intra-synovial diagnostic anesthesia)によって疼痛部位の限局化(Localization of pain source)を行うことで確定診断(Definitive diagnosis)が下されます。肩部のレントゲン検査(Radiography)では、外側撮影像や斜位撮影像(Lateral and oblique views)に併行して、スカイライン撮影像を用いて上腕骨結節溝を全長にわたって検査することが推奨されており、また、上腕骨および肩甲骨の骨折(Humeral/Scapular fracture)を慎重に除外診断(Rule-out)することも重要です。結節間滑液嚢炎のレントゲン上異常所見としては、上腕骨大結節の無機質脱落(Demineralization of humeral greater tubercle)、二頭筋溝の骨密度低下(Decreased bone density on bicipital groove)、滑液嚢の石灰化(Calcification of bursa)などが認められます。肩部の超音波検査(Ultrasonography)では、結節間滑液嚢の膨満(Distension)や滑膜肥厚(Thickened synovial membrane)、滑膜と二頭筋腱の癒着形成(Adhesion formation)、結節間滑液嚢内の高エコー性浸出物(Hyperechoic material inside the bursa)、二頭筋溝面の不規則性(Irregular surface on bicipital groove)などが認められ、上腕二頭筋腱炎(Biceps brachii tendinitis)を併発した症例では、上腕二頭筋腱の浮腫(Edema)や腱繊維走行の破損(Disruption of tendon fiber alignment)が観察される場合もあります。感染性の結節間滑液嚢炎が疑われる際には、吸引した滑液の性状検査(Synovial fluid analysis)によって、白血球数の増加、好中球含有率の上昇、蛋白質濃度の増加などを確認します。また、飼養環境内で牛との接触の可能性がある場合には、血清検査によってBrucella abortus感染を除外診断することが推奨されています。

結節間滑液嚢炎の治療では、非感染性で骨折を伴わない急性病態を示す症例においては、保存性療法(Conservative therapy)による治癒が期待できることが示唆されており、馬房休養(Stall rest)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与、コルチコステロイドとヒアルロン酸の滑液嚢内投与(Intra-synovial injection into bursa)、DMSO軟膏の局所塗布(Topical application of DMSO ointment)などが行われます。また、運動療法としては、曳き馬開始後に障害物を跨がせる運動を行うことで、肩関節伸展を促す手法が推奨されています。

感染性の結節間滑液嚢炎を起こした症例や、レントゲン上で結節溝面の異常所見や上腕骨骨折が認められた場合には、外科的療法が必要とされ、結節間滑液嚢の内視鏡手術(Arthroscopy)によって、骨折片の除去(Fracture fragment removal)、結節面の病巣清掃(Debridement)、滑膜および二頭筋腱の癒着部位の切除および病巣清掃、滑液嚢の洗浄(Lavage)と抗生物質注入(Anti-microbial infusion:感染性の場合)などが施されます。慢性経過を示した症例では、過剰形成された滑膜の外科的切除術(Synovectomy of excessive proliferative membrane)が応用される場合もあります。また、二頭筋腱の切断術または切除術(Biceps brachii tenotomy/tenectomy)によって、滑液嚢に掛かる圧迫を取り除く治療法も試みられています。

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