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馬の臼歯の抜歯治療での長期合併症

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馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。

ここでは、馬の臼歯の抜歯治療における、長期的な合併症の発生状況を調査した知見を紹介します。この研究では、英国のエジンバラ大学の獣医病院において、2004~2018年にかけて、臼歯の抜歯治療が実施された428頭の症例馬における、医療記録の回顧的解析、および、長期的な合併症に関する聞き取り調査が行なわれました。

参考文献:
Kennedy R, Reardon RJM, James O, Wilson C, Dixon PM. A long-term study of equine cheek teeth post-extraction complications: 428 cheek teeth (2004-2018). Equine Vet J. 2020 Nov;52(6):811-822.

結果としては、症例馬428頭のうち、臼歯の抜歯による合併症の発生率は13.6%(58/428頭)に上っており、このうち、臨床的に長期的な弊害を及ぼしたケースは約六割(34/58頭)に達していました。そして、合併症の内訳としては、歯槽の腐骨形成が最も多く、歯槽組織の細菌感染を伴っているものも見られました。また、罹患臼歯のうち、第二前臼歯~第四前臼歯の抜歯では、他の臼歯の抜歯に比べて、合併症の発生率が有意に高いことが示されました。

この研究では、歯根感染を呈していた症例では、そうでない症例に比べて、有意に高い合併症の発生率が認められました。さらに、抜歯の手法を見てみると、口腔側から引き抜いた場合に比べて、歯根部から叩き出したり、最小侵襲性の経頬壁アプローチにて抜歯された場合では、合併症の発生率が有意に高いことも分かりました。ただ、歯科疾患の発症から抜歯治療までの期間は、医療記録で不明なケースもあり、解析されていませんでした。

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以上の結果から、馬の臼歯の抜歯においては、前臼歯が罹患している場合や、術前に既に歯根の細菌感染を伴っていた場合には、十分な病巣掻把や術後の抗生物質療法を実施して、歯槽腐骨などの合併症の予防に努めることの重要性が再確認されました。また、口腔側から引き抜く抜歯法のほうが、合併症が少ない傾向が認められましたが、これは他の術式のほうが、歯槽骨損傷などのリスクが高いという可能性が否定できない一方で、初診時での細菌感染が進行していて、口腔側から引き抜けないほど変性および虚弱化した症例ほど、術後の合併症に繋がりやすかったという可能性も考えられました。過去の文献[1]でも、口腔側から引き抜くほうが、他の術式に比較して、術後合併症が少ないという知見が示されています。

また、馬の抜歯治療に関する他の文献[2]を見ると、下顎骨の臼歯での抜歯においては、合併症の発生率は6.6%(20/302頭)となっており、最も多い合併症は、やはり歯槽腐骨形成(18/20頭)となっていました。また、第二前臼歯および第一後臼歯の抜歯において、他の臼歯に比べて、合併症の発生率が有意に高かったことも報告されています。なお、これらの症例では、下顎部への瘻管形成(5/20頭)や下顎骨膿瘍(4/20頭)を続発したケースも見られました。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2020 Nov;52(6):811-822. (doi: 10.1111/evj.13255. Epub 2020 Apr 9.); Front Vet Sci. 2020 Aug 13;7:504. (doi: 10.3389/fvets.2020.00504.)

参考文献:
[1] Caramello V, Zarucco L, Foster D, Boston R, Stefanovski D, Orsini JA. Equine cheek tooth extraction: Comparison of outcomes for five extraction methods. Equine Vet J. 2020 Mar;52(2):181-186.
[2] Gergeleit H, Bienert-Zeit A. Complications Following Mandibular Cheek Tooth Extraction in 20 Horses. Front Vet Sci. 2020 Aug 13;7:504.

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