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馬の抜歯後に起こる菌血症

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馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。ここでは、馬の抜歯治療をした後に起こる菌血症に関する知見を紹介します。

参考文献:
Kern I, Bartmann CP, Verspohl J, Rohde J, Bienert-Zeit A. Bacteraemia before, during and after tooth extraction in horses in the absence of antimicrobial administration. Equine Vet J. 2017 Mar;49(2):178-182.

この研究では、ドイツのハノーバー大学の馬病院において、抜歯治療が実施された症例馬のうち、治療前の四週間のあいだに抗生物質が投与されていなかった20頭において、抜歯前の病巣の拭き取り検体、および、抜歯前と抜歯後における血液検体の細菌培養が実施されました。その結果、抜歯治療を受けた症例馬のうち90%(18/20頭)において、術後に菌血症の続発が確認されており、血液中から分離された菌は、抜歯箇所から分離された菌と一致していました。

このため、馬の抜歯治療においては、口腔内病変の原因菌が、抜歯箇所から血流に侵入することが示唆されており、そのような一過性の菌血症が、馬体の他臓器への細菌感染を続発する危険性が懸念されました。この研究では、術後合併症として他の部位での細菌感染は起きておらず、また、抜歯箇所の歯肉病態の重篤度も評価されていませんでした。今後の研究では、抜歯前における口腔内の殺菌処置や、抜歯前に数日間以上の抗生物質投与を行なうことで、抜歯後の菌血症を予防できるか否かを評価するのが有用だと考えられました。

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この研究では、抜歯後に血液から分離された細菌としては、フソバクテリウム属菌、プレヴォテラ属菌、アクチノマイセス属菌などが挙げられており、また、歯科疾患の発症によって、馬の口腔内細菌叢における嫌気性菌やグラム陰性菌の割合が増加することが示唆されています。このため、馬の歯科疾患に対する抜歯治療を実施する際には、特に、重篤な細菌感染を伴う疾患や、抜歯前に抗生物質療法が行なわれていなかった症例に対しては、口腔内または病巣部の拭き取り検体を採取して、細菌培養検査および抗生物質感受性試験を行ない、術後にアグレッシブな抗生物質投与を実施することが提案されています。

ヒトの医療分野や犬においては、抜歯や口腔内の外科的処置によって、口腔内の細菌が血流に侵入する現象が知られており[1,2]、また、馬においても、抜歯治療による菌血症から、細菌性髄膜炎を続発したという症例報告や [3,4]、抜歯後に頭頚部の膿瘍や血栓性静脈炎を続発したという知見があります[5]。また、馬における類似の事象としては、口腔内細菌の侵入によって右側心内膜炎が継発しうるという報告や[6]、頭部の蜂窩織炎を治療する際に、血行性に眼組織に細菌感染が波及したという症例報告もあります[7]。このため、馬の抜歯処置においては、術後の稀な合併症として、菌血症および他臓器への細菌感染を考慮して、適宜な予防対策を講じる必要があるのかもしれません。

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参考文献:
[1] Kinane DF, Riggio MP, Walker KF, MacKenzie D, Shearer B. Bacteraemia following periodontal procedures. J Clin Periodontol. 2005 Jul;32(7):708-13.
[2] Nieves MA, Hartwig P, Kinyon JM, Riedesel DH. Bacterial isolates from plaque and from blood during and after routine dental procedures in dogs. Vet Surg. 1997 Jan-Feb;26(1):26-32.
[3] Arndt S, Kilcoyne I, Heney CM, Wong TS, Magdesian KG. Bacterial meningitis after dental extraction in a 17-year-old horse. Can Vet J. 2021 Apr;62(4):403-407.
[4] Zetterstrom S, Groover E, Lascola K, Cole R, Velloso A, Boone L. Meningitis After Tooth Extraction and Sinus Lavage in a Horse. J Equine Vet Sci. 2021 Feb;97:103323.
[5] Horbal AA, Reardon RJM, Froydenlund T, Jago RC, Dixon PM. Head and neck abscessation and thrombophlebitis following cheek tooth extraction in a pony. Equine Vet Edu. 2019;31(10):523-529.
[6] Verdegaal EJMM, de Heer N, Meeertens NM, Maree JTM, Sloet van Oldruitenborgh-Oosterbaan MM. A right-sided bacterial endocarditis of dental origin in a horse. Equine Vet Edu. 2006;18(4):191-195.
[7] Racine J, Borer-Germann SE, Navas de Solis C, Stoffel MH, Klopfenstein M, Klopfenstein Bregger MD. Treatment and ophthalmic sequelae in a horse with facial cellulitis and orbital abscess. Equine Vet Edu. 2017;29(11):594-599.

関連記事:
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